2013年6月30日日曜日

『色を見る、色を楽しむ。…』・ブリヂストン美術館にて

昨日。
今週の予定として自らに課していたすべてを終え
心身ともに疲れていた。情報量の多さゆえに。

夕方。まだ17時にはなっていない。
八重洲にいた私は斜め向こうに見えたブリヂストン美術館へ。

ブリヂストン美術館コレクション展 
色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』…
2013年6月22日(土)〜2013年9月18日(水)



何も考えないで
ただ眺めた。

誰が描いた、
などはどうでも良かった。

美大生たちの集団だろうか
学芸員らしき人の説明を聴いていた。
私はそんな説明もスルーして
ただ
魅かれるものは
何度も
近くからも遠くからも
立ったり座ったり
色々な角度から眺めた。

迷路のような館内を何度もぐるぐる。
気がつくと心が安らいでいた。

『色を見る、色を楽しむ。…』
結果的に展覧会にピッタリのタイトルだと思った。

Tearoom Georgette( ティールーム ジョルジェット )で熱い珈琲と、フランス産フロマージュが添えられたスコーンを頂く。
元気になった。

私が美術作品をひとりで静かに眺めて楽しむ幸せを知ったのは
パリに滞在中のことだった。
特に美術や美術史に何の知識もない自分が
パリで一番楽しめたことだった。

どこか心の中の騒音をリセットできる藝術の力には
感謝せざるを得ない。

『知っていそうで知らない、すみれの話』・日本調香技術普及協会講演にて

4つの花の物語・LES SOLIFLORES par ANNICK GOUTALで改めてスミレをテーマにしたフレグランスに触れ
ちょうど知りたいと思っていたことを
絶妙のタイミングで知る機会に恵まれました。

日本調香技術普及協会
の6月29日講演会のテーマは二つ。

1.『知っていそうで知らない、すみれの話』
田淵誠也氏(日本すみれ研究会 事務局長)
2.『トゥーレットのニオイスミレ』
佐野孝太氏(曽田香料株式会社フレグランス開発部長)

すみれ。菫。ヴァイオレット。
この、鮮やかな濃い紫色の、楚々とした可憐な花について
私が知っていたことなどほんの僅かでした。
程良くお化粧をした大人の上品な女性を思わせる粉っぽい香り…
どこか懐かしく奥深い香りを醸し出すその花の天然香料は
かつては作られていたものの
今や香料として市場に流通するような作られ方はされておらず
合成で表現されている…その葉も貴重な香料原料のはず…。

植物としてのすみれの専門家である田淵先生のお話を聴講し
この花の秘密をいくつも知りました。
・種類が多い。スミレ科スミレ属で世界に約500種、日本には55種ある。
・においのあるものもあればほとんど無いものある。
・いわゆる花びらが開かない状態でも種を作ることができる。
・蟻の好むものを提供するかわりに蟻に種を運ばせる。

そして、調香師である佐野先生からは
香料抽出に用いられるニオイスミレ(学名 viola odorata) の
代表的栽培地である南フランス、トゥーレットでの
花からのアブソリュート抽出体験のお話を聴きました。
昔は花から温浸法で香料を抽出していたそうですが
現在では行われなくなり
栽培されたニオイスミレの花はブーケ用、砂糖菓子用となります。
香料は葉からアブソリュートが抽出されているそうで
その収率も0.04%と低く価格はかなり高価とのこと。

このヴァイオレットリーフアブソリュート。
10%希釈で鑑賞いたしました。
確かにパワフルなグリーン。どこなく和を感じさせる滑らかな奥深さ。
これはかつて私が好きになった
幾つかのフレグランスの余韻の中にもありました。

毎年3月第2日曜日には
スミレの町トゥーレットでは
スミレ祭り(FETE DES VIOLETTES)が行われているのだとか。
素敵です。
もし私が地中海沿岸に住んでいたら
3月は南仏へスミレ祭り、
6月はブルガリアへバラ祭りへと旅をすることでしょう。

さて
帰宅後、コチラ でご紹介した本を開きました。
「ヴァイオレット」のページには
紀元前4世紀に植物学の祖であるテオフラストスによる
この植物への言及があったと記されていました。
そして
フレグランス「パリジェンヌ(2009)/イヴ・サンローラン」を
調香したソフィー・ラベによる香料ヴァイオレットの魅力が綴られています。

今回のように
スミレを植物として専門に研究されている職業の方と
香りの専門家である調香師の方のお話を続けて聴くことで
有機体としての香りの知識を立体的に深めるきっかけになったと
思います。


2013年6月27日木曜日

美的好奇心で見る『貴婦人と一角獣 展』

乃木坂駅から直結。
国立新美術館へ。



フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
貴婦人と一角獣展


背景を知らなくとも
この暖かみのある赤と落ち着きのある青のコントラストには
何度か振り返った人が多いのではないだろうか。

展示室は2階。
タペストリーが制作されたと思われる1500年代も
室内はあまり明るくはなかったであろうし
明るい照明は作品保護のために避けられているはず…

ほの暗い会場であることは予め承知してはいたが
最初の広間で
触覚・味覚・嗅覚・聴覚・視覚・我が唯一の望み
の6点が、一続きパノラマのように見られることを
どこかで期待していた。

一点ずつ説明とともに区切られていた。
五感、そしてそれらを超えた六番目の精神ともいうべきものは
つねに一体であるはず。
バラバラのようでいて
それは言葉で区切っているだけのことで…

一巡のあと
再びこのスペースの中央に立ち
私自身がゆっくりと周った。

ようやく見えてきた。

古い記憶の中
そんな状態での展示を見たのかもしれない。
かつてパリに滞在中、毎日美術館巡りをした。

ちなみに
フランス国立クリュニー中世美術館
本国のWebサイト によると、日本にこれらの作品を貸し出している間、置かれていたスペースは改修中であるらしい。

メインの作品と同じように印象的だったのは
「算術」という作品。
算術は、美を表す比率を論証するための学問、
というようなことが記されていた。
どこか数学には美的好奇心が漂う、とは
昔から感じていたことだったから。

かつて大切にされたものや思想は
このような作品の形で後世まで残り
ジョルジュ・サンドらの文学者により価値が見出され
フランス国の至宝とされ
異国の私にも見ることができた。

一角獣にまつわる歴史も深い。
さまざまな動物も植物も、
常に人と共に生きてきたことが作品から実感できる。
一角獣というものは現存しないが
人の美的好奇心が産んだものだと思った。

2013年6月26日水曜日

4つの花の物語・LES SOLIFLORES par ANNICK GOUTAL

SOLIFLORE
ソリフローレ。
一輪挿し、という意味のフランス語です。

窓際の花を眺め
先週のアニック・グタール の新作発表会を思い起こしました。




淡いピンクのカラーの中に4つの花をテーマとした香り。




LES SOLIFLORES
と名付けられたこの4作は
カラフルな花々がもたらす柔らかく抒情的な香りを丁寧に組み合わせ
印象派の絵画のような空気感を表現。

ROSE SPLENDIDE
(ローズ スプレンディド)
マグノリア、ペアー、バニラの香りがほのかに漂い、ローズがもつ爽やかで優しいグリーンムスクノートへ。

LE CHÈVREFEUILLE
(ル シェブルフイユ)
ハニーサックル(シェブルフイユ)は、アニック・グダールの娘カミーユにとって花冠を作って遊んだ幼い頃を思い出させる花。レモンプチグレン、ワイルドナルシサス、ジャスミンの織りなす心地よさとともに。

LE MUGUET
(ル ミュゲ)
ミュゲとはスズランのこと。
グリーンノートの複雑な香りを和らげるように立ち上がるベンゾインのバルサミックな香り。春の訪れを祝福するようなフレグランス。

LA VIOLETTE
(ラ ヴィオレット)
ヴィオレットとはスミレのこと。
アニック・グダールが家族と過ごすアベロンの別荘で大切にしている思い出の場所と同じように名付けられたフレグランス。ローズとラズベリーがほのかに香ります。

このうち"LE CHÈVREFEUILLE"のみ既存であり、本国サイトのコチラでもご覧いただけます。

"LES SOLIFLORES"として
4種新作シリーズとしての日本発売は
9月8日。

私は
"LA VIOLETTE"の…なんとも奥深く懐かしいようなすみれの香りに心魅かれ
遠い昔、美しく和服を着こなした祖母の笑顔が浮かんだり
なめらかな絹擦れの音などが聴こえてきて…
手首に纏い幸せな数時間を過ごしました。
かつてマリー・アントワネットが
バラとすみれの香りを愛したという気持ちがよくわかった時間でした。

いつも心に可憐な花を。

情報提供
ブルーベル・ジャパン株式会社
香水・化粧品事業本部
『カフェ デ パルファム』

2013年6月23日日曜日

夏花・時計草

夏至を過ぎ
今日は山羊座にて満月。

今年もそろそろ半分が終わる。
個人的に例年と比較しあまりにも様々な出来事が続き
ひと休みしたい時期だった。

何も考えず心を空にして歩く。


時計草に出会った。
すこし元気をもらった。

時計のように見えたのは日本人かもしれないが
その昔ラテン語に端を発する言語を話す人々には
この花の姿がキリストの受難の姿に見えたそうで
まさにその意味が学名となっている。

香りもそうだが
ヴィジュアルも
人によって違うものとして感受される。

私はかつて
植物に詳しい祖母から初めてこの花を庭で見せられ
まさに花が開くところを目撃したことがある。
ちょうど今頃の季節だった。
動く花、
静かに時を刻む命の姿として
私は時計草を記憶していた。

微香はあるはずだが
この花は間違いなく
その特徴的なヴィジュアルで
強烈に人の記憶に刻まれたのだろう。


2013年6月22日土曜日

香りの専門誌"PARFUM" 166号(夏号)発刊

香りの専門誌"PARFUM" 166号(夏号)発刊。

表紙は
メキシコで吹くホットな風のように、輝きと歓びにあふれる人気の香り、
クリスティーナ ダーヴィン/ソノラ のヴィジュアルです。




今号の特集テーマは「大人リゾート」。
シャネルやニナリッチと同世代のブランドとして名高い、マダム・グレからの新作『マダムグレ オードパルファム』や、『メルセデス・ベンツ フォーウィメン オードパルファム』、『モンブラン レジェンド スペシャル エディション オードトワレ』等大人の品格あふれる新作が紹介されています。

「芸術と香水104」では
7/15まで東京・国立新美術館にて開催(7/27〜10/20 大阪・国立国際美術館にて)の、『貴婦人と一角獣』展 について2pに渡って紹介。
ヨーロッパの人々にとって一角獣は特別な意味を持つ伝説上の動物だとか。

「時代をリードした香り美人とファッションー10」
(ポーラ文化研究所主任学芸員 津田紀代さんによる連載)では
イタリア・トリノに生まれ、幼少期にパリに移りお針子となり、宝石商ルイ・リッチと結婚後アメリカに作品原型を販売したことを契機に1932年、息子とともにメゾン「ニナ・リッチ」を開いた女性、ニナ・リッチのブランドストーリー。息子のロベルト・リッチがいかに香水創作を重要視したか、その結果生まれたのが名香『レール・デュ・タン』(1948年)であったことが改めてわかります。

その他、書籍紹介ページ"BOOKS"では
今回私が『カフカと映画』(白水社)
『果物のごはん、果物のおかず』(誠文堂新光社)
の二冊について執筆しています。

バカンスをゆったり…
アートに浸り、読書にふけり、美味を楽しみ…
素敵な香りで爽やかな夏を過ごすガイドとなれば幸いです。


2013年6月21日金曜日

夏至から始まる夏へ…爽やかで優雅な新作コロン "EAU D'HADRIEN"

オーデコロン。
心地良さと清潔な存在感のために求められた、身づくろいのための水。
それはかつて18世紀、イタリア人によって創られ
肌にも胃にも効く万能薬「すばらしい水」と名付けられた香る液体でした。

この夏
フランスで創業30年以上を経た香りのブランド『アニック・グダール』が
ブランドを代表する2つのフレグランスに最高級の香料を用いて
新しいオーデコロンを発売。(6/26より)
その一つが、この "EAU D'HADRIEN"です。




「"HADRIEN"とは?」
新作発表会で
この明るいイタリアの陽光とやさしさを感じさせる香りに魅かれた私は
二代目の調香師でもあるカミーユ・グダールさんにうかがってみました。




アドリアン、それはローマ皇帝ハドリアヌスの名前が由来。
カミーユさんの母である創始者が、小説『ハドリアヌス帝の回想』に感動され
彼のキャラクターを表現されたということでした。
イタリア産シトラス、バジル、ローズマリー、そしてムスク。
明るく爽やかな気分がいつのまにかやさしい温もりに包まれている…
そんな余韻を心地よく楽しめます。

オーデコロンは
オードパルファムやパルファムのように香りの持続性はありませんが
まずは肌にうっすらと上品な清潔感を纏いたい人には必需品。

男女問わず、気軽に楽しめる香りです。

透明であるがゆえに…
その香りのイメージは無限大。




品格に満ちたシンプルなガラスボトル。
『アニック・グダール』のロゴが記された黄金のキャップ。
その内容にふさわしく
クラシカルな美しさをモダンに表現しています。

情報提供
ブルーベル・ジャパン株式会社
香水・化粧品事業本部
『カフェ デ パルファム』

2013年6月20日木曜日

記憶をベースに、ヒトは五感で香りを感じる

前回の私の記事で
同じ香りがボトルの色が違うことにより
私の興味の持ち方が違っていたことを発見。

見えているものだけでヒトはものを見ないし
見えているものと共にヒトは香りを感じる。
そんなことを考えていた折り…
タイムリーに発見した記事が実に興味深い。

Fragrances and Cultures
Twin Perceptions: Color and Scent, Part One: The Scarlet Trumpet
06/15/13 16:21:10
By: John Biebel


この記事の筆者、John Biebel さんは画家、音楽家、作家、そしてソフトウェアデサイナーである。かつて学校で美術を学んだ彼は現在、匂いに関する科学を学ぶ学生であり、ヒトと香りの化学との関係に特別な関心を持っていとのこと。

彼と同じ興味を日々抱く私は
彼の記事を全文一気に読んでしまった。

五感を有機的に働かせて様々な表現を試みている彼のような人物ゆえのまっとうな問題意識であると思うし、改めて、規制概念を捨ててものを見る、聴く…の重要性を感じる。
色というものひとつ挙げてみても
誰もが同じように見ることは決してない、そう思う。

まず、ヒトによって蓄積してきた記憶が違う。たとえば大好きなヒトがいつも身につけていた色は好印象として記憶に刻まれている。…a
そして、その色についてこれは何の色だとかどういう意味があるのだとか薀蓄を教え込まれ、画一的な知識をインプットしたとする。…b
さらに。ヒトは生き物であるから、一時として同じ状態ではない。体調の良いときもあればそうでないときもある。体調が異なれば気分も違い、その時どきの五感(視覚・聴覚…)の複合的な感じ方に影響する。…c
以上a,b,cのファクターが複雑に反応しあって
「どう感じるか」
という解がはじき出されるのではないか。

そしてこれは、
香りの感じ方についても言えると考える。
毎週、自然科学の講義で約50人の学生にさまざまな香りを
まずはその実体を知らせずに提示し印象を記録してもらっている。
そのレポートに記される内容は…
いくつかの傾向はあるものの
まさに50人50様である。

日本のほとんど同じような地域で生まれ育ったヒトたちですら
こういう状態である。ましてや違う文化圏では?
他人が自分と同じ感じ方などするわけはない、
という前提から
物事を考えたほうが良いことは明白。

2013年6月18日火曜日

" NUIT ÉTOILÉE" (星降る夜) par ANNICK GOUTAL

デビュー時には目を留めていなかったものに
意外な場所で再会し、魅かれるという体験。

ピアニスト〜ファッションモデルの経歴をもつ
調香師アニック・グダールを創始者とするフランスのフレグランス・メゾン
「アニック・グダール」の新作発表会があり
会場で並んでいたこれまでの香りの中で
最もシンプルなメンズ仕様のボトルに記された
名前に魅かれ手にしてしまいます。




同じ内容が
男性用のスクエアボトルと女性用の丸みのあるボトルに
入っています。

" NUIT ÉTOILÉE"

この名前から私は
夜の漆黒の中にきらめく星明かりの中の時間を想像。

その夜空同様の深い香り…
うっすら冷んやりとした空気に
シトラスやミントの面影を感じつつ
ぬくもり溢れる旋律へ。

素敵な想像力で自らの瞳を輝かせられる人であれば
男性はもちろん
女性でも大人であれば年齢問わずお似合いでしょう。

ブランドのWebサイトには
昨年デビューしたこの香りの説明が
コチラに記されています。

記憶をたどると
確かに私はこのブルーのボトルを昨年見ていたのです。
でも、そのときは
この青色になんだか圧倒されて
名前に目を留められていなかったようです。

想像の中で…
刻一刻移り変わる
漆黒とも濃紺ともいえる深い夜空の色を感じたかった私には
今回出会ったシンプルな透明ガラスボトルの装いだからこそ
この名前に魅かれたのかもしれません。

情報提供
ブルーベル・ジャパン株式会社
香水・化粧品事業本部
カフェ デ パルファム

2013年6月16日日曜日

父の日 ・『日本野 必要だけど足りない、これからの日本の緑』の言葉から


父の日。
数ヶ月前に他界した父が生前密やかに書きためていたという短歌を
母が編集し、一冊の歌集にしたものが届く日でもありました。

その前日に手にした一冊の本。
『日本野 必要だけど足りない、これからの日本の緑』/発行 日経BP社

この本に寄稿されている方々の職業を目にし
たとえば、茶人、酒蔵の主、歌人、…
こうした方々の「言葉を聴いてみたい」と感じました。

記憶に残る言葉を
本に付箋をするのではなく
コチラに抜き書きしておこうと思います。

1.
茶人 裏千家家元 千 宗室さんのお言葉より

「…いま見たこと、いま感じたことを深く考えもせず、安易に言葉や行動で表現しようとするから収拾がつかなくなってしまうし、それがトラブルの種にもなっているように見えます。」(p47)

2.
清酒「月の桂」酒蔵、増田徳兵衛商店代表取締役
増田 徳兵衛さんのお言葉より

「創業から三百年以上、十四代もやっていると、いつも新しいことに挑戦し続ける必要があります。新しいことに挑むからこそ、守っていけるものもあります。」
(p74)

3.
歌人  冷泉家時雨亭文庫常務理事・事務局長
冷泉 貴実子さんのお言葉より

「四季の美は日本の美の基本です。その美が、長い時間をかけて文化として熟成され、私たちは共有できる自然観をつかんだのではないでしょうか。そのなかには、実際にはない自然もあるでしょう。でも、それこそが日本文化であり、日本人ならではの美意識だと思います」
(p85)

いまの私になぜこれらの言葉が響いたのかを考えてみると
そこには父との思い出がありました。

たとえば1。父は言葉をたいせつにする人でした。
その父である祖父も、他人宛の手紙を書く際、何度も下書きをする人でした。
2の言葉には長い年月を生きる人間の静かな挑戦と試行錯誤の重みを感じます。
父は49才の働き盛りに病に倒れ、それまでの生活が一変したにもかかわらず
新たな生きる糧を探し、30年以上生き続けました。
そして3。本日届いた父の歌集には
四季を感じる心から、見えなくても細やかに振舞われた人の思い遣りへの
深い感謝が、みじかい語句によって淡々と綴られていました。

日本という国が
これまでのような明瞭な四季を感じられる場所であり続けられるか
それはわかりませんし
世界にはこのような四季のない地域に暮らす人もいます。
そうした方々との関わりの中で
微細な変化を感じ楽しむ感覚をいかに活かすか。
香りへの感受性の違いを考える上でも再考したいテーマです。

日を改めて違うタイミングでこの本を読んだ時
そのときの私の琴線に触れる言葉と新たな出逢いができますように。


2013年6月15日土曜日

大学と都市と駅と…建築3景

6月7日
東京、中野駅から徒歩10分弱。
明治大学・中野新キャンパス。




高層と低層が合体。
直線の多い中
白のなだらかなカーブやテラステーブルで目が和む。

真新しいキャンパスではあるが
以前訪れた駿河台キャンパスや
杉並のキャンパスと空気感は同じ。
いずれの機会も
この大学の教授である知人の温かいご好意により
一般公開された特別講義を聴講させていただいた。


6月8日
金沢駅近くにある高層建築物13階からの夜景。




もはや子供時代によく訪れたあの金沢ではない。
様々な高さ、形、光のホテルが都市の夜景を描いている。


6月9日
金沢駅前。
ガラスでできた
もてなしドーム横のバスロータリー。
曲線の中の直線。




ますます私には新鮮な金沢。
7年前、2006年秋に訪れたときとも全く印象が違う。
外国人の姿も多い
この北陸の駅は
2年後の北陸新幹線開通に向けて
日々生き物のように変化しているように感じた。

2013年6月14日金曜日

梅実る季節に


La saison des pluies au Japon,
c'est la période que les pruniers voient leurs fruits arriver à maturité.

日本の梅雨、それは梅が実る季節です。

2月に香り高く美しく咲いていたあの梅が
ちょうどこの夏に向かう雨の多い時期に実るなんて
なんと素晴らしいことかと改めて思います。

私は梅ジュースや梅干しのおかげで
この時期元気を保てることに感謝しています。

なんとなく「梅干し」のイメージが強いかもしれませんが
梅はれっきとしたフルーツ。




紀州南高梅のみごとな実を蜂蜜酢で漬け込まれたという
立派な梅干しをいただきました。
プルンとみずみずしく爽やか。
まさにフルーツそのものです。

雨が降り続けるからこそ
合間の晴天は有難く
陽射しの強い日が続くと雨が有難い
そんな情緒が育まれる季節でもあります。

2013年6月12日水曜日

オーストラリア発 "Perfumed Jewelry" ・香るジュエリーを着る

香水は「液体の宝石」とも呼ばれます。
人の肌と服の間に漂い
こぼれるように
人の動きとともにフワリと一瞬
見えないオーラを描くもの……

私などは身につけることによって
まず自分自身が心地よく
気分が上向きになり笑顔とともに自信が持てます。
自分がこうありたいと望むイメージ自体は抽象的ではありますが
これを纏っている自分にとっては具体的な存在感です。

すれ違うすべての人には伝わらなくても
「さりげない存在感」として
そのような自分に共感を持ってくださる方には
必ず伝わるでしょう。

日本では美を感じる上で特に繊細な感受性の方も多く
「あからさま」よりも「さりげなさ」が違和感がないようですが…。

ですが
そんな「さりげなさ」では物足りない方、
そもそも皮膚に香水をつけることができない体質の方にとって
喜ばれそうなニュースを見つけました。

Perfumed Jewelry: An Accessory for Fragrance Lovers
06/11/13 18:17:14
By: Jodi Battershell


ジュエリーと香水が一つになったこのアクセサリー。
デコラティブなゴールドやシルバーの中の
香水の香りが付けられたストーンは
なんと約28日間も香りの持続性をもつそうです。

しかもその香水というのは
世界の名だたるトップセールスを誇るものから選べます。
どうやってストーンに賦香しているのかは秘密のようですが。

少なくともこのプロダクトによって

皮膚に付けてもすぐに香りがとんでしまって持続性がないと感じる
皮膚につけると最初の香水の香りのイメージがどんどん変わって落ち着かない
そもそも皮膚に香水をつけられない

という方々にとっては喜ばれそうです。
細かな配慮抜きで
このジュエリーさえ身につければよいのですから。

詳しくはこちら
オーストラリア発のこのブランドの公式サイトを。

個人的所感ですが
皮膚に香水をつけられない方は
明日着ようと思う服を
香りを含ませたハンカチやコットンとともに
専用の箱に一晩入れておくというのも試す価値があると思います。




2013年6月10日月曜日

北陸の美菓・モダン&クラシック

北陸は私の故郷。
厳しくも美しい山と雪
そして清らかな水に恵まれ
繊細な美と人を思いやるあたたかい心を感じる素敵な地です。

縁あって週末に金沢へ
仕事で訪れました。

思いがけず出会った美菓二種。

金沢うら田 愛香菓



口の中で繊細にふわっと溶けて広がるやさしい甘さと香りは、アーモンドとレモン、シナモンの香りです。

甘さをほろほろと奥ゆかしい風味に創りあげる和菓子の伝統技術にモダンな香りとパッケージ。

そして、もう一種は私の生まれ育った富山の素敵なお菓子でした。
五郎丸屋 薄氷



高校時代の同級生からいただいたこのお菓子に思わず見とれてしまいました。薄氷の夏限定、蛍です。

サクッと軽い触感の中に
ひんやりと上品な和三盆の甘さが伝わってきました。素晴らしい銘菓です。抹茶にさりげなく添えられたら、なんと風情のあることでしょう。

土地の自然
そして季節感が
繊細に表現されたお菓子。
心和みました。

2013年6月7日金曜日

『調香師が語る 香料植物の図鑑』(原書房)と過ごす午後

…とある書店内カフェにて。
この本『調香師が語る 香料植物の図鑑』(原書房)と1時間ばかり共に過ごす。



5月末に発刊されたばかりの新刊。鮮やかな植物フォト満載。

著者3名が紹介されている。
フレディ・ゴズラン氏は物理科学博士であり、
香水に関する約40種の出版物を刊行。
グザビエ・フェルナンデス氏は化学博士であり、
ニース ソフィアアンティスポリス大学大学院にて研究所長、
植物研究に関する60冊以上の科学的出版物を刊行。
ベルナール・ガロタン氏は
パリで考古学を学んだ後、情熱に導かれ8年間料理を多方面から研究、
レストランシェフとして経験を積み、最近は音楽、現代美術などと味覚をフュージョンさせることに喜びを見いだしているとのこと。

翻訳は前田久仁子氏。東洋医学、アロマテラピーを学び現在はグラースの植物療法専門薬局にてフランシス・アジミナグロウ氏に師事し、フィトテラピーを研究。
10年以上前、来日講演されたアジミナグロウ氏の通訳をされていた前田氏にお目にかかったことを思い起こした。

原題は " L'Herbier Parfumé : Histoires humaines des plantes à parfum"。
この中に並ぶフランス語から
香水を愛する人にはもちろんのこと
人と芳香植物との関わりの歴史に興味のある人には楽しめる内容と想像。

序文の最後のページに、レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉が引用されていた。
「真の科学は、においを嗅いで生じる結果から生まれる」

先月私も講演の中で、「嗅覚は人の文化の入口」と冒頭で語った。
香りあるものを感受する感覚を活かすことの重要性を改めて実感。

2013年6月6日木曜日

金沢にて・花の香りについてお話いたします(AEAJ 地区イベント AROMA SEMINAR)

来る6月9日。
私は金沢にて
『花の香りとの相性を探る』
をテーマに講演いたします。

これは
公益社団法人 日本アロマ環境協会が主催する
地区イベントアロマセミナー今年度春夏の最初におこなわれるイベントの中のセミナーテーマの一つでもあります。

コチラがそのご案内リーフレットの全内容です。

花の香り
ということでまずは…
普段はもしかしたら何気なく感じている花とその香りを
より意識していただき
おひとりおひとりの記憶の中に眠っていた
花との素敵な時間やシーンを
よみがえらせていただきたいと思っております。

当日は
アロマテラピーの精油としてだけではなく
フレグランスに欠かせない大切な香料としても名高い
2種類の花の香りをご堪能いただきます。
どちらも、その産地としては調香師も絶賛する国からのものを
なるべくフレッシュな状態でご提供できることになりました。
うち1種の産地である国には私も実際に訪れています。

テーマには「相性を探る」と掲げていますが
これは
「2種類の花のうちどちらが自分好みであるかを探る」
ということではありません。
これまでの歴史の中でこれらの花と人がどう関わってきたか
そもそもの人とのこれらの花とのさまざまな幸せな相性を知っていただき
それらの香りを感じながらご自身が
どのような気分のときそれらの香りを感じたくなるか
そうしたシチュエーションとの相性を想像し、
これまでの花との記憶を探っていただけたら幸いです。

嗅覚を感じるしくみ、そして皮膚。
この二つは、人にとって重要なセンサーです。
当日はこの二つのセンサーを花をより深く知るために
生かしていただきます。

私からは花の香りと人の間に実際に起きた事実を
これまでの香りの普及・教育活動や
アロマセラピストとしての活動からご紹介し
私自身の活用法も含めてお伝えいたします。

アロマ(芳香)、という言葉を用いるからには
使う人にとって心地よいものでなくてはならない
心地よいからこそ
と私は個人的に考えています。

一人でも多くの方々に
花の香りとともに心地よい時間となりますように。

参考情報
(公益社団法人 日本アロマ環境協会 Webサイトより)
アロマテラピー最新研究Vol.1〜バラの香りの美肌作用

2013年6月5日水曜日

地上45階『禄』で出逢った、光に浮かび上がる『かみ添』の模様

乃木坂駅から徒歩5分。
ミッドタウン内、カフェから
ザ・リッツカールトン東京へ。

1階にて所用を済ませたあと
45階フロントにあるラウンジで休憩しようかと思ったとき
目に留まったのがこのお店でした。

禄 ROKU

そしてこの紙に出逢いました。


光によってうっすらと浮かび上がる
その有機的で繊細な模様に
しばらく目を奪われ
手にとると
あたたかなぬくもりを感じました。

ちょうど数日後
数年ぶりで再会することになっている大切な方へ
ひとことメッセージを添えてお渡ししたいちいさなものがあり
まさにこの紙がピッタリであると直観したのでした。

遠目には…水面にゆれる光の影のようでもあり
クローズアップしてみれば
花のゆらめきのごとく華やかです。


動きによって光とともに浮かび上がるこの模様の美しさは
京都の『かみ添』さんでつくられているとうかがいました。

私のささやかな気持ちを
この紙に添えて伝えたいと思いました。
想いがうっすらと香るように伝わりそうな…
そのような紙に出逢えたのは
久しぶりのことです。


LANVIN HIVER 2013 "URBAN ROMANCE" の中で新香水 "ME" を鑑賞

7月並みの気温となった6月某日。
初夏の緑を見渡せる会場にて。




ランバン ファッション2013年秋冬ウィメンズ&メンズコレクション
プレゼンテーションとともに
新レディースフレグランス「ME」
(2013年8月28日発売)の展示を拝見。




"ME"
それは「自分に」贈るギフト
鏡に映る自分にキスする女性
といっても個人主義やナルシストではなく…
自分自身を大切に
誰かの好みに合わせるのではなく
自分の感じる美を受け入れ
自分のなりたいイメージや着たい服に関心のある女性…

デザイナー、アルベール・エルバスはそう語っています。




ややグレイッシュで柔らかなブルーの箱に刻まれたのは
ランバンのデザイナー、アルベール・エルバスの手描きの文字。

調香師はドミティーユ・ベルティエ。
…以降は私の感想です。

トップノートにブルーベリー
…エスプリの効いた第一印象と微笑みを感じます。
ミドルにチュベローズ
…穏やかな表情の中に見え隠れする情熱、ユックリと響きます。
ラストにリコリスルート
…好奇心を掻き立てる複雑な魅力、ミステリアスな余韻です。

このオードパルファムの香りは時間が経っても
トップノートから引き継がれたフレッシュな輝きが色褪せず
多面的な魅力に包まれながらも肌の温度とともに
その人だけの陰影を醸し出してくれるように感じます。
ボディローションと合わせて使うと
その香り方はさらに立体的なものとなるでしょう。

さて会場では
"URBAN ROMANCE" のモード。




素材、テキスタイルからの自由な発想と
人の身体が出会う瞬間に生まれるスリルが
都会の風景に映えるシンプルなエレガンスに昇華させられていました。




初夏の緑を背景にするからこそ
半年先の空気感へのイマジネーションはふくらみます。
服とともに香りを体感できる展示会ならばなおのこと。


情報提供
ブルーベル・ジャパン株式会社
香水・化粧品事業部
カフェ デ パルファム

2013年6月3日月曜日

オレンジフラワーとローズの優美な旋律・" Elie Saab " の新香水

日曜日の午後。
これからの一週間に着る予定のブラウスにアイロンを。
オレンジフラワーとローズの芳香蒸留水をブレンドした
リネンウォーターを使いました。

その後しばらく室内にうっすらとその余韻は漂い
あらためて
この二つの花の香りの素晴らしさに浸りました。

今朝目に留まった新香水のニュース。

Elie Saab Le Parfum Eau de Parfum Intense
06/02/13 00:19:10
By: Sanja Pekić


このシンプルかつエレガントなガラスボトルの控えめな輝き。
トップにオレンジフラワー、
ミドルにローズハニー、イランイラン…
といった王道な組み合わせ。

このElie Saab というブランドはレバノンのデザイナーの名前。
彼は究極のフェミニンビューティーを追求し
シンプルかつ繊細でエレガントなドレスを生み出しています。
Elie Saab の公式サイトをみると
動画により
ボトルを担当するフランス人デザイナーや
調香師フランシス・クルジャンの言葉も聞くことができます。

Elie Saab の公式サイトよりparfumのページ

2013年6月1日土曜日

2013 Fashion show " ACT " by BUNKA GAKUEN UNIVERSITY

5/30のコチラの記事でご紹介の、文化学園大学けやき祭に行ってまいりました。

こちらにうかがうのは、講師を担当し始めた2005年以来9回目。
毎回午前など早い時間帯に訪れていたのですが
今回は15時ごろに小平キャンパス着。

学内展示を鑑賞後に
3年生によるファッションショーの最終ステージを16:00から拝見。
今回のショーのテーマは " ACT "。8テーマの世界観の表現。




例年、モデル(全て国際ファッション文化学科の学生)も
日本人だけではなく海外留学生とともに
多様な雰囲気をつくりだしていますが

今回何と言っても新鮮だったのは
男性モデルも参加していたこと。
2011年度からこの大学は共学になっていたのです。
改めて
男性も女性も共にいることで
互いの魅力がひきたつと感じます。
遠くから眺めていても彼らの相互反応が
伝わってくるような初々しさでした。
見えないフェロモンの働き?

今回は特に
テーマのタイトルから意識もされたのでしょうけれど
服を着た人の動き、笑顔、表情が印象的でした。
服の魅力を表現するために
メイク、歩き方、表情すべて工夫してクリエイションされた結果
人の魅力がありありと浮き彫りになること。
これはもしかしたら
最終ステージだったから余計に感じたことかもしれません。

朝から何度も緊張したランウェイ。
やり遂げた達成感と
服とともに表現できる自分の今を実感できたのでしょう。
感激で涙をにじませていたモデルさんもいました。

ショーの会場、ヴァイオレットホールを出ると
12月の4年生による卒業イベント『雪の女王』のフライヤー。
チームクリエイションによる表現の難しさと面白さを
ショーで体験できるのは貴重です。