2013年3月22日金曜日

『ディアギレフとバレエ・リュスの世界』・芳賀直子氏講演録〜記憶に刻まれた『薔薇の精』

3月15日。国際香りと文化の会 講演会演題その二は
『ディアギレフとバレエ・リュスの世界』、講師は舞踊研究家の芳賀直子氏。
『バレエ・リュス その魅力のすべて』(図書刊行会)の著者です。

バレエ。素敵な世界であろうことは感じていたものの
その歴史を含めたコンテクストに関して私はほとんど知識がなかったため
「未知の素敵な世界」のお話をうかがうことを楽しみにしていました。

芳賀さんの冒頭のお話のうち三つのことが
私の期待感を高めていたと記憶しています。

ー「国際香りと文化の会…なんて素晴らしい会でしょう。このような会でお話できることを嬉しく思います。」

ー「バレエを鑑賞する劇場の香りはまさに観客の香水の香りなんです…劇場は社交場でもありました。」

ー「『薔薇の精』という演目がありますが、これは窓から跳躍で入ってきてまるで夢遊病者のように踊り、再び窓から跳躍で去っていくというタイヘンな体力を要する踊りなんです。」

以上から私が感じたのは
芳賀さんは、バレエと同じ位に「香り」という目には見えない世界に魅力を感じられる方であること。そしてヨーロッパに端を発するバレエとともに香水もおそらく大好きでいらっしゃるでしょう。さらに、『薔薇の精』はまさに薔薇の深く捉え難い芳香を人間の全身を用いて表現されたものと解釈できたため、この演目を講演の最初で挙げられたこと自体が、バレエと香りの接点を意識されていたであろうことでした。

ご講演約90分。まるで観劇しているかのような楽しさでした。
芳賀さんの語りから香る情熱と溢れるばかりの情報量。
ご著書を一冊分読んだ位の内容だったのではないでしょうか。

「香り」・「ファッション」・「フランス語」に仕事で関わる私には
『薔薇の精』のエピソードを筆頭に
バレエの歴史(ルネサンス期のイタリアで発祥、フランスで様式化され、ロシアで開花した)はもちろんのこと、芸術としてそしてロシアの素晴らしさを伝えるためにと独自のバレエ団『バレエ・リュス』を結成したセルジュ・ディアギレフによる、芸術界、ファッション界への影響力の痕跡というものは非常に印象的でした。
1909〜1929年という『バレエ・リュス』の存続期間は、丁度ココ・シャネルが登場する時期にも重なり、シャネルも演目の衣装を担当しています。

広く世に芸術の価値を伝える…
こうした情熱の軌跡は、ヨーロッパの先人に多くを学ばなければならないと改めて実感します。
ディアギレフは、『バレエ・リュス』結成前に雑誌媒体『芸術世界』を発行し、展覧会も積極的に行ったそうです。これらが後の活動のベースとなったとのこと。
私にとってディアギレフは、以前のコチラの記事でご紹介した近代ロシアの画家、イリヤ・レーピンとともにここ一年間で知った忘れ難きロシア人となりました。

講演会後に調べて知ったことの一部を挙げます。

2007年には、映画『バレエ・リュス 踊る歓び・生きる歓び』が公開されていました。

2009年には、京都精華大学博物館にて
バレエ・リュス100周年記念 バレエ・リュス その芸術性とデザインの魔力が開催。芳賀さんが監修されています。

そして『薔薇の精』については
財団法人 日本舞台芸術振興会 ニジンスキーの伝説に説明がありました。その一部を引用して*〜*に記します。


… フォーキンがウェーバーのワルツ『舞踏への招待』(ベルリオーズ編曲)に振付けたこの一幕作品は、フランスの詩人・小説家であり、『ジゼル』の台本作者としても知られるテオフィール・ゴーティエの詩から想を得て創られた。「……あなたのまぶたを開けて下さい。私はゆうべの舞踏会で、あなたが胸につけて下さったあのばらの精です……」 …中略…フォーキンはいう。「バラの精は魂であり、希望である。また、バラの香気であるとともに花弁の愛撫であり、口では言い表せないものである」(『ニジンスキー頌』)。


まさにこれは薔薇の香りの表現そのものでもあり
「香りの女王」と呼ばれる天然ダマスクローズのフレッシュな香りに生まれて初めて触れたときの私の心象風景のようです。

奇しくも『バレエ・リュス』結成100年目は
香料バラ、ダマスクローズの産地として世界的に名高いブルガリアと日本の外交復興50周年の2009年。
この年以降私が監修する『パレチカ』の奥深い香りを記憶によみがえらせています。

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