2012年9月9日日曜日

香道と香水とアロマテラピー

8月31日の日経新聞夕刊に、「抗加齢を学ぶ」と題した記事があり、その日のタイトルは「イライラ鎮める日本のお香」でした。京都府立医科大学学長の吉川敏一氏によるその450字弱の文章は、実に簡潔にお香の歴史背景と魅力を説明されており、私は一読するなり切り抜いて大切に保管していました。

全部で4段落ある文章の冒頭の段落を引用してみます。香道、香水、アロマテラピーすべてに通じる、人間と香りの歴史の始まりについて「」のように簡潔に記されています。


「 太古の時代に火を得た人類は、草木を燃やす時に放たれる芳香を発見したといわれている。その神秘的な香りは、世界中で宗教儀式のほか、精神の安らぎなど病気治療に使われてきた。」


今よりもずっと危険と不安に満ちていたかもしれない昔だったからこそ、人は感覚を研ぎ澄ませていたのでしょう。その不安や苛立ちをしずめてくれる上に、見えないけれども魅かれる、神秘的と呼ぶべきか美と呼ぶべきか…そのような心地にさせてくれる香りに深い価値を見出し、地域ごとに時代ごとにそれぞれ独自の発展を遂げたのではないかと私は考えます。

香道は日本で、香水は主にヨーロッパで発展したものです。そしてアロマテラピーはそもそもはフランスの化学者が芳香植物を治療に役立てられる可能性の再研究から20世紀前半に命名したものです。それぞれその発達の歴史背景も異なり、方式もちがいます。ですが三つに共通して言えることは「香りの魅力」です。

古今東西さまざまな文化が発展してきて今日があるのですから、香りを楽しむ方法が一つであるわけがありません。時と場合に応じて、好きな方法を楽しめば良いのです。アロマセラピストの中には、香道をきっかけとして香りに興味を持ったという人もいれば、私のように香水をこよなく愛する過程で香料への探究心からアロマテラピーを学んだ人間もいます。2005年から私が担当の「ファッションとアロマ」という講義では、単一の天然香料を丁寧に「聞く」体験から始めて、半年後には苦手意識をもっていた香水の魅力もわかるようになったという学生が毎年喜びの声を伝えてくれるのです。

入口はどこからでも良いと思います。
嗅覚という、本能に直結する感覚を刺激するものですから、あまり難しく考えないほうがよいのです。受け入れられる方法から香りを楽しんでいくことで、いつしか他の方法にも興味が向けられていきます。日本古来の芸道の一つである香道の魅力はもちろん、今やファッション表現の一要素でもある香水、そして現代のライフスタイルにも容易に導入できるアロマテラピーで気分良く過ごす快適性もきっと実感できることでしょう。様々な方法の魅力に共感できたとき…改めて人と香料のルーツを想像できるような気がします。


0 件のコメント:

コメントを投稿