2011年11月14日月曜日

香りと空想が好きな方へ・『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(森晶麿 著)

書物との出会いは、人との出会いと同様。インスピレーションが走るときは大抵重要な出逢いである。

先週私は、一冊の本に出逢った。
まずはタイトルに魅かれる。
「黒猫」、そして「美学」。
装丁のイラストも赤と黒のコントラストが印象的。

そしてページをめくる。
どうやら登場人物には「黒猫」がいるらしい。
開いたページで「黒猫」がこんなことを言っているくだりが目に留まった。
「最近、僕は嗅覚の美学的問題というものに取り組んでいるんだよ。…」

もうこの段階でこの本を読みたくなっていた。
最後に、と改めて表紙の帯を眺めた。
「第1回 アガサ・クリスティー章受賞作」。
私の好きなミステリー。もう心は決まった。

一度だけ、通して読んでみた。私の好きな世界があった。主人公は少なくとも「香り」に詳しい美学・芸術学教授。そして、ここが私の個人的に好感のもてるところなのだが、男女の間柄を単にありきたりの、かたちだけの恋愛でしか捉えないような人物ではない。本名が明かされていない二人の登場人物は、日常のささいな出来事に新鮮な感受性をもって「謎」として眺める心を大切にできる。何気ない空想の楽しみを知る人にとって、ここに収められた六つのストーリーは様々な絵となって映るだろう。

森晶麿 著『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(ハヤカワオンライン)

そしてもう一度、『美学入門』(中井正一 著/中公文庫)を読み返したくなった。



0 件のコメント:

コメントを投稿