2011年11月30日水曜日

「違いがわかる」とは?…香水鑑賞講義より・1

昨日、大学での講義「ファッションとアロマ」9回目として実施した香水鑑賞会。講師である私がこの実施を通して感じたことを少しずつ記録しておこうと思う。

主にファッションブランドから今年発売された香水9点とそのビジュアル資料を鑑賞する機会を提供。資料にはブランド側から発信されたリリースにとどまらず、国内外(今回はフランスの雑誌)の媒体から私がピックアップしたものも含まれる。昨日実際に受講したのは、国際ファッション文化学科のスタイリスト・コーディネーターコース、映画・舞台衣装デザイナーコース、プロデューサー・ジャーナリストコースの3年生約90名。

私からはまず広告用ビジュアル資料のみを見せながらコンセプトやブランドの歴史背景、いわばその香りのコンテクストを解説する。その直後学生には、視覚表現と私の解説から印象に残った表現や事象について記述させながら実際の香りを想像させる時間を設ける。その間私は別室(視聴覚室)にて香水本体とパッケージ、ビジュアル資料とともに、数本の試香紙に各々の香りを吹き付けて放射状にボックスセットする。

もちろん、9点もの香水を一箇所に固めて展示などしない。ある程度の間隔をもたせる。しかも学生にも時間差で誘導。香水の鑑賞方法についても事前に指導する。あくまでも試香紙の香りを一巡して試し、印象に残るものについてのみ、講師が指定したテーマで記述させるレポートを課す。

この一連のメニューを経て提出されたレポートを一読し、私が感じたことその1は、「違いがわかる」とはどういうことかについて。

印象に残ったレポートが二つあった。一つは、ゲランのイディールのボトルがディオールのジャドールに似ているという指摘。展示したのはゲランのみ。ディオールは学生の記憶から。もう一つは、9点の香水のうち、パッケージ&ボトルデザインにピンクを使用したものは4点しかなかったのに「どうしてこう香水の広告はピンクばかりなのか」といった指摘。

確かにイディールのボトルとジャドールのボトルは、上部が細長く底が丸く拡がる形であるという点では共通するかもしれない。だが、実際のボトルを見たり触ったりするとまるで違うものであることのほうを強く感じるものだ。似ているようで全然違うものがある、ということをもっと感じてほしいと実感。

そして、実際はピンクが広告に使われているもの4点以外は、黄色、青、ベージュ、ネイビー、ゴールド、シルバー、赤など様々な色が使用された香水の視覚表現を見せたのであるが、ピンク系が最も強烈な印象だったのか、他のものの色彩表現の違いへの言及が足りないのは残念。

つくづく、人は自分の見たいようにしかものを見ないということに尽きるが、ファッションを専攻し、表現者を目指すのであれば、一見似たようなものの集まりの中にある違いや、自分の第一印象だけでなく、その印象の強弱のコントラストの背景に何があるのかをふと考えてみるような習慣を身につけてもらいたいと感じた。そのためには五感をフル活用させて多くを体験するしかない。しかも他人事的ではなく自分のために。これからの時代、ますます多様化する社会の中で動く空気感を読み取るためにも。


2011年11月28日月曜日

クロモジの紅葉

以前私のブログ、日本産クロモジの香りから聞こえる「木の循環」と、クロモジ精油の香りで続く爽やかな息… にてご紹介の、クスノキ科の植物クロモジ。

上記ブログを精油メーカーの方にお伝えしたところ、喜んでくださり、クロモジの香りでゆったり・・・の中でもご紹介いただきました。

紅葉したクロモジの葉の中に、ピカピカに黒いクロモジの実が愛らしく輝いていて、眺めているだけでもゆったりとした気分になります…

メーカーの方に、
「精油を抽出するためにたくさん植物を使うと思うのですが、ローズウッドみたいに減ってなくなりそう…てことはないのですか。」
と尋ねましたが、今のところその心配は全くないそうです。であればこの木の生育とともに森の自然を守ることは大切と実感。


2011年11月27日日曜日

「香りを活かしたファッション教育」を再考できた日

11月26日。2005年から私が担当してきた大学講義での試みにエールをいただいたような気がした。これまで模索しながら実践してきた「香りを活かしたファッション教育」の可能性を改めて感じられたからである。

昨日午後。
明治大学創立130周年記念国際シンポジウム(主催:明治大学商学部) —「国際ビジネス教育の新展開をめざして」—ファッション・ビジネス教育の世界展開 を拝聴。ファッションデザイナーのコシノジュンコさん、シャネルジャパン社長のリシャール・コラスさんをはじめ、海外4カ国でファッション教育に携わる方々のお話を聴講。明治大学という130年の歴史と伝統をもつ総合大学の商学部が「ファッションビジネス教育の世界展開」を記念シンポジウムのテーマとして掲げ、次の100年に向けて「個を強め、世界をつなぐ人材育成」を具体的に実践しようとしている。

このシンポジウムは、明治大学国際日本学部特任教授、中野香織さんのブログでのお誘いにより事前予約していたもの。中野さんもさっそくこのシンポジウムについてのブログを写真とともに「神の創造物は丸く、人間が考え出したものは四角い」にて記されている。

ファッションデザイナーとして、コシノジュンコさんは自らの着想から考えた「対極の美のバランス」を説き、「ものごとを考えるセンス」の重要性を強調された。身近なものの中に謎や興味を発見できる感覚、そしてその着想から始まる思考を拡げられるか、ということは、形によって美(新たな意味を含む)を表現するデザイナーにとって不可欠な能力だ。

世界的なブランド、シャネルジャパン社長としてこのブランドの価値を広く伝える立場にあるリシャール・コラスさんは、創業者ココ・シャネルの哲学をブランドの歴史とともにプレゼンテーション。そのスピリットを活かし、「過去を生かしてより良い未来をつくるのだ」というゲーテの言葉を引用しながらも、「一貫性」・「継続性」・「統合性」をポリシーとし続けるブランドの姿勢を強調。

イギリス、フランス、中国、オーストラリア各国のファッションビジネス教育に携わる先生方は、現在各々の国に置かれている経済情勢、社会情勢から求められる人材育成へのアプローチとそのための国際的ネットワーク構築の必要性を説かれた。シンポジウム終演直前に壇上で一言ずつ、と言われて回答されたフランス、モダルト・インターナショナルスクール学院の校長、パトリス・ド・プラース氏がゆっくり重々しく伝えられた内容が印象的であった。会場の多くの明大付属高生や大学生に向けての言葉であろう。ーこれからは自国以外の異なる文化についても多く広く学び理解に努めようとすることが不可欠。ビジネスが国際的に展開する時代であるから。ー

さて、私の話。
2005年から文化学園大学(旧文化女子大学)現代文化学部国際ファッション文化学科において講義「ファッションとアロマ」を担当。当初この科目の企画依頼を受けたときには、ファッションを専攻する学生に香りの知識と教養を、という程度であったが、果たしてそれで良いのかと考えた。対象が現代文化学部、国際ファッション文化学科の3年生である。

紀元前の昔から人に大切にされてきた香料を嗅覚で体感しながら背景の文化を理解したり、最新のフレグランスのプレゼンテーションから各ブランドの歴史と哲学、ファッションにおける香りの重要性を知ること。これらを教養として身につけることももちろん貴重とは思う。こうした知識がベースとなって初めて有史以来の人の歴史の中の今、という視点を持てるであろうし、第三者に多角的にモノの価値を伝えられるからだ。しかしながら、かれらがそれまでに学んだ服飾造形表現技術が活かせるよう、そして個々の着想をスタートにどのような過程で具体的な表現に到達させるかを実践できる内容にしたいと思った。

その結果、できたひとつのかたちが、香りの視覚化表現を最終課題とすることである。…見えない香りというものを見えるように表現することは、自由であるが正解はない。着想を起点に深い思考が必要。模索し続け、ある段階を選択,統合して形にまとめるセンスが不可欠であることだけは確か。これを実感できる場をこれからも、未来ある学生に提供していきたいと思う。


2011年11月26日土曜日

" DE LA GYM SANS LE SAVOIR "(無意識の運動)を意識して

昨日こんな記事を発見。
ナタリー・ポートマンを変えた!? NYで話題のバレエ・エクササイズに密着(2011,11,17/ELLE ON LINE)

確かに、良い姿勢を意識していると、たるまないフェイスラインと綺麗な背中(背筋)がもれなくついてくる。そして重心となる腰を意識し、脚を真っ直ぐに保ち、適度な速さで静かに歩こうと努めていると、下半身も引き締まっていく。できる限り見苦しくないような動作を心掛けていると、そうした日常の身体活動だけでもずいぶん筋肉トレーニングになっているものだと改めて気づく。そうしたことを、私は10月のブログ、「日常が筋トレ」の中でも書いていた。

そして昨夜。
20年前の美容雑誌 " VOTRE BEAUTÉ(1991,11月号) " をクローゼットから発見し、懐かしく眺めていて発見したのがこちらのページ。まさにこの動き。


これは、"La gym du moindre effort" ( 少しの努力でできる運動)という記事の一部で、上記のイラストの見出しは、" DE LA GYM SANS LE SAVOIR "(無意識のうちにできる運動)。"gym"は、辞書をみると「体操」と和訳があるが、なんとなく「運動」といったほうが、「身体を動かすこと」を全般的に指すように思う。

上記のイラスト、まさに筋トレである。
前提にはぴんと伸ばした背筋がある。特にバスタイム、頭皮や身体を洗うときが絶好の筋トレタイム。座ったりせず、イラストのように立ったままで脚を上げて洗ったり、首を洗いながら胸筋、上腕を鍛える。最初はちょっと意識して痛かったり、辛かったりするかもしれないが、慣れると無意識のうちに出来ていく。こういう生活を続けていると、適度な筋力が保たれ、長い階段でも息切れしないし、膝にもあまり負担がかからない。

忙しい私にとって、あえて「運動」のための時間をつくるという「努力」をしなくてもすむことが、何よりも有難い。

2011年11月25日金曜日

世界の天然花香を活かすヴィンテージフレグランス(ジバンシィ)

10月のブログ「ジバンシィ プレミアム フレグランス2010 の3種」にてご紹介のフレグランス。これらに使用される香料のうちでも特に重要となる原料の一種が天然の花香料。2010年収穫の花から得られた貴重な香料を用いてつくられた3種をお借りする機会に恵まれましたので、記録を兼ねてのご紹介をしたいと思います。

まずは、2010年トルコ・イスパルタ産ダマスクローズ使用。
ヴェリィ イレジスティブル ジバンシィ プレミアム 2010。
フレッシュな薔薇のデリケートなみずみずしさが引き立っています。


2010年、イスパルタは遅い春の訪れと長雨のおかげで例年より開花期間が長くなったことにより、高品質のバラが多く収穫。ラズベリーにも似たフレッシュなグリーンノートが極めて繊細に、優しい香りを放っています。

次に、2010年コモロ諸島・モヘリ島産イランイラン使用。
アマリージュ プレミアム 2010。
甘くフレッシュなバナナを想起させるイランイランのエキゾチックな魅力が光っています。


2010年、モヘリ島は、雨季の訪れが遅く、アマリージュのために選ばれた花は5月初旬、イランイランが満開になり始める時期に採取。芳香性の高い最上級の花は、アマリージュの晴れやかなミドルノートにフルーティな甘さとパウダリーな上品さを与えています。

そして、2010年中国・広西省産サンバックジャスミン使用。
アンジュ デモン プレミアム 2010。
熟した果実のような甘さを携えたジャスミンがもたらす艶やかさと安らぎ。


2010年、広西省では干ばつ⇨大量降雨という急激な気候の変化により花の回復力が増し、極めて短期間で成長し、上質な花が得られました。サンバックジャスミンのフルーティでフローラルな香りがミドルノートを艶やかにしています。

年ごとに異なる花の質。たとえば…ある年に収穫されたダマスクローズの香りが抜群に芳醇で甘くフルーティーなトップノートに富んでいたとします。調香師はこの香りを最大限に活かすべく、ダマスクローズ香を既にブレンド処方の一種としていた既存フレグランスの全体としての調香をさらに精密に再構築するのです。

こうしたヴィンテージフレグランスをジバンシィが、「その年の大自然の恵み(花香料)を体現する類稀なる逸品…ジバンシィ プレミアム シリーズ」としてプロデュースし始めたのは、2005年産のものからでした。
2005 ブルガリア産ブルガリアンローズ ⇨ ヴェリィ イレジスティブル、グラース産ミモザ ⇨ アマリージュ
2006 シャトー・ドゥ・グラース産セントフォリアローズ ⇨ ヴェリィ イレジスティブル、ナブール産オレンジブロッサム ⇨ オルガンザ、マヨット島産イランイラン ⇨ アマリージュ
2007 モロッコ産ダマスクローズ ⇨ ヴェリィ イレジスティブル、エジプト産ジャスミン ⇨ オルガンザ、インド産ミモザ ⇨ アマリージュ
2008 トルコ・イスパルタ産ダマスクローズ ⇨ ヴェリィ イレジスティブル、マダガスカル・ノッシベ島産イランイラン ⇨ アマリージュ、インド産サンバックジャスミン ⇨ アンジュ デモン
2009 モロッコ産セントフォリアローズ ⇨ ヴェリィ イレジスティブル、 フランス産ミモザ ⇨ アマリージュ、エジプト産オレンジブロッサム ⇨ アンジュ デモン

植物の恵みに感謝するのは、食べ物としてだけでなくその芳醇な香りそのものに対しても同様。改めて、暮れ行く2011年の地球上の香りの恵みに感謝したいと思います。

参考資料:
「2010 HARVESTS ジバンシィ プレミアムシリーズ」ニュースリリース

2011年11月24日木曜日

香水、そして映画の動向から見えたこと

勤労感謝の日が過ぎると、さすがに今年も残りわずかと実感。

今年デビューした香水、そして最近の映画の動向から感じたことを記しておこうと思う。

まずは香水。
イタリアのブランド、ボッテガ・ヴェネタがブランド誕生後45年目にして初のフレグランスを発表したいきさつはコチラでも記した。
そして、メゾン マルタン マルジェラより、フレグランスがデビュー(2011,10,25/FASHION NEWS)。これまでの香水の枠にとらわれない…といった革新的な姿勢をうたっているが、実際に香りを確認してみると、香料本来の素晴らしさが丁寧に活かされたクオリティを感じた。

この流れはその後も続く。
マドンナが初の香水「Truth or Dare」を発売
(映画.com 11月7日(月)15時5分配信/YAHOO! JAPANニュース)
。あのマドンナまでもがついに。
そして、トリーバーチがビューティーに参入、初のフレグランス発売へ
(2011年11月2日 12時00分/ excite ニュース)
。意気込みあり。

ブランドイメージ、情報発信の重要な手段として、フレグランスという想像力を刺激し官能に働きかける方法が改めて注目されている。しかもそのクリエイションにかける想いも深い。本来そうあるべきだったのに、とも思う。

さて、映画について。
今朝、無垢と色気と知性(2011,11,24/中野香織オフィシャルブログ)を拝読。改めて感じたのは、サッチャーにしろ、モンローにしろ、過去に輝いた人物。またしても伝記的映画。モナコ妃となったグレース・ケリーの映画も制作が進んでいるというし、…思い返すとこのごろ偉大なる過去の人物の伝記的ドキュメンタリー映画やドラマが続いている。今年私がみたものとしては、イヴ・サンローラン、グレン・グールド、セルジュ・ゲンスブール…そういえば現在放映中のNHK朝のドラマ「カーネーション」も世界的に活躍する3人のファッションデザイナーの母の物語であった。

混迷する時代の中で、生き物としての人間が、官能に訴えかける原点をみつめなおし、過去を輝かせた人物の生き様から何かを再発見しようとしている。
そんなふうに感じた2011年。あとひと月でクリスマス・イヴ。

2011年11月23日水曜日

クロモジ精油の香りで続く爽やかな息…

このところ、チョットした実験が功を奏してささやかな幸せを感じています。
歯磨き後の息がひときわ爽やかに感じるようになったこと。

日本産クロモジの香りから聞こえる「木の循環」でご紹介のクロモジ精油、販売されている会社の方とお話していて、これは歯磨き剤をより快適に使用するために活用できるかもしれない、と感じたのです。そもそもクロモジという木は、口の中を綺麗にする楊枝として使われていたのですから。

そこでまずは自己責任のもと、私自身で実験。
市販の歯磨き剤を、小さなクリームなどの化粧品詰替容器に、およそ5~6回分チューブからうつします。その中にクロモジ精油を1滴だけ滴下して木製の太目の楊枝でよく混ぜます。ここから楊枝で歯ブラシに1回使用分をとり、歯磨きしてみたのです。

そもそも口の中に入れて使う楊枝として用いられてきたものだけあって、その香りが口にふわっとひろがっても何の違和感もありませんでした。歯磨き剤にもともとついていたミントの香りを凌駕する、加えたてのクロモジ精油のフレッシュな香りは最高に清々しく、こんなに気持ちのよい歯磨きタイムは初めてでした。

飲んでしまうわけではありませんから、歯磨きの泡の中に微量含まれていたクロモジ精油とはしばらく口の中で接触するだけです。ピリピリすることもなくすすぎました。1回分に1滴では明らかに多すぎて強すぎると感じたので歯磨き5~6回分位に1滴で試しましたが充分でした。もっと薄くてもいいかもしれません。精油を混ぜたものは長持ちしないですしね。

驚いたことに、この歯磨きをした後、爽やかな息がかなり持続したのです。顕著なのは寝る前の歯磨きから明けて翌朝の感触。チョット続けてみようと思います。私は医師ではないので精油を薬として使用することはできませんから、こうした情報をまず予防医学に熱心な歯科医の方にお伝えしたいと思いました。




2011年11月21日月曜日

貴重な瞬間という名の香りを思い起こした日

この頃シナノゴールドで始まる朝を迎えていたら、思い起こしたことがありました。シナノスイートのストレートジュースをひとつ、キープしていたのです。
りんごのしずく(秋映・シナノゴールド・シナノスイート)
の中で私は、シナノスイートのしずくについてこう記していました。

淡黄色にほんのりピンクが入った少女の肌のよう。フレッシュな甘さが初々しく感じられて、名称に「スイート」が入っているのも納得。ふわりと新鮮なピーチの香りがよぎる愛らしさ。甘さと爽やかさと可愛らしさのバランスが絶妙なこの香りは「ラブリー・タイム」。人生の中で幾たびか訪れる貴重な時間。そしてそこに存在する人。


「ラブリータイム」。人生の中で幾たびか訪れる貴重な時間。
そんな時間、瞬間を感じられる日が訪れたら飲んでみたいと。

今日はそう感じられる瞬間がありました。
ラブリー、といってもその種類は様々。恋愛だけではありません。
10月から私の香りの講義を受講され、先週生まれて初めて精油をブレンドしてリラックス用の香りを作られた学生さんが、香りの良さは勿論、穏やかな気分になれる効果に感動され、その素晴らしさを実感できたというご報告を受けたからです。これ程私にとってハッピーでラブリーなことはありません。

心がほんのりとバラ色に染まり、明日も元気でいたいと思う気持ち。
ここ数日、このフレグランスを「着て」いたおかげもあるのかなと思います。



人生における最も貴重な瞬間「アッティモ・ローフロラーレ」でご紹介した、今秋発売されたばかりの香りです。

2011年11月20日日曜日

中国茶(ウーロン茶)を選んで…嬉しかったこと二つ

昨夜、知人と食事のために訪れた中国料理店にて。
食べたい料理とあわせて飲みたいアルコールを皆注文する。私も毎回そうしていたけれど、昨夜は夕方からのパーティーでワインを何杯か頂いた後でもあり、温かく香りの良いものを飲みたかったのでホットウーロン茶を注文した。

運ばれてきたのは立派な器。陶器で蓋つき。
ああ見たことがある。中国茶専用の茶器。
思わず蓋をとってしまう。
茶漉しが上部にあり、茶葉が見える。
温かさとあいまってこのお茶のかすかにフローラルな芳香が拡がる。
この瞬間、かなり心が和らいだ。

食事が終わる頃…
向かい側の知人が「お腹いっぱい…」とちょっと眠そうなというか苦しそうなという雰囲気。ちょうどテーブルの4人で話が盛り上がっているところだった。ふと私は、彼女にウーロン茶の茶葉ののった蓋を示し「良かったら香りをどうぞ」と言ってみた。すぐに鼻に近づけてひと呼吸した彼女は、一瞬のうちにリフレッシュできたのか、直後にシャープな質問を投げかける。4人の会話はいっそう楽しく盛り上がった。そしてこれも香りのおかげかもしれないと嬉しくなった。



2011年11月19日土曜日

朝の幸せ・シナノゴールドから香る「ルミナス・インプレッション」

今年の春、こんなブログを書きました。
りんごのしずく(秋映・シナノゴールド・シナノスイート)。先日ラ・フランスをいただいたとき、この中のシナノゴールドを思い起こしさっそく食べたくなりました。


シナノゴールドについて、上記のブログで私はこう書いています。
…淡い黄金のしずく。芳醇です。かすかに梨のような香りに始まるとろみを感じさせるような味わいから一瞬、多種のフルーツが盛り合されたフルーツバスケットを想像。後味にふわりと残る余韻から清純な花の香りも感じられ…まさに「ルミナス・インプレッション」。一度目が合うと忘れられないオーラを感じさせる、気品に満ちた人。…

本物のシナノゴールドを一口。心が晴れやかになるような華やかな印象です。
噛み締めると程よい硬さ。先行する酸味を甘味が上品に追いかけてくるのです。フルーティーな躍動感のあとにフローラルな残り香。やはり、春にストレートジュースで感じたとおり、「ルミナス・インプレッション」でした。

りんごは大好きな紅玉からはじまりこれからも様々な種類が楽しめます。ささやかな朝の幸せです。


2011年11月18日金曜日

熟したラ・フランスにおもう…

大好きなラ・フランス。食べ頃です。
完熟のものをいただきました。




とろけるような触感。芳香にあふれた上品な甘味がジューシーに伝わるこの幸せは、まさしくフランス人に「我が国を代表する果物にふさわしい」と言わしめただけのことはあります。そのあたりのエピソードはこちら、おいしい山形ホームページより「西洋なし」に詳しく記されています。

パリやミラノに行ったとき、つくづく感じたのはフルーツが日常にふんだんにあるということ。買うときも1個ずつ、なんてことはありません。kg買いが普通になっていました。ヨーロッパでは果物は野菜感覚で料理にもよく使いますし、もっとラフに食卓に置いてあります。見た目も日本みたいに綺麗ではありませんが、要は香りが良くて美味しければいいのです。

2005年の資料(「FAO STAT Food Balance Sheets 」より作成された、1人1日当たり果物供給量の国際比較グラフ)によると、先進国24か国の中で日本は21位。何ということでしょうか。ちなみに上位5か国は1位イタリア、2位ギリシャ、3位フランス、4位オランダ、5位オーストリア…。6年後のいまはどうなっているのか気になります。

海外からきた人にはよく言われます。
「日本人は見た目を気にしすぎ。だから果物が高いんじゃない?」
もしそうなら残念。もっとラフにたくさん食べたいものです。





2011年11月17日木曜日

誕生から45年目に掲げた香りの形・" BOTTEGA VENETA "

昨日のブログ で予告のフレグランスボトルをご紹介します。昨日の雑誌記事の写真では姿を見せていませんでしたが、このボトルの底面をご覧ください。
イントレチャート(イタリア語で「編込み」「メッシュ」を示す)。
ボッテガ・ヴェネタの代名詞的なビジュアルです。
しなやかな丸みのカーブの先に、時を経て浮かび上がる光の模様。
20年前の秋に訪れたイタリアの陽光を思い起こしました。


" BOTTEGA VENETA" 初のフレグランスは、ブランドが誕生した1966年から45年目の2011年に誕生。イタリアの腕利きの革職人たちが築いてきた伝統に根差すこのブランドの哲学は「自分のイニシャルだけで十分(When your own initials are enough)」というモットーに表現されているそうです。

改めて、ブランドの香りを持つとはどういうことか、考えさせられます。

初のフレグランスの名前もブランド名そのままです。ブランドそのものを表すボトルデザイン、香り、シグニチャーカラーのパッケージ。


シンプルな形状はいつの世も人に求められるスタンダードであると思います。しかしながら、シンプルでありながらも優雅なテクスチュアを感じさせ、無意識の奥底に潜む官能に深く響く存在感を表現することは容易なことではありません。たとえて言うならば、それは日々の積み重ね、本質を求める熟考と五感の解放を繰り返すこと…人にとってかけがえのない美を追求し続ける姿勢の先にしか見えないものでありましょう。

参考資料:
BOTTEGA VENETA PARFUM リリース資料

2011年11月16日水曜日

アーバンな残り香4種・" SILLAGES URBAINS "

パリの美容雑誌 " VOTRE BEAUTÉ "2011,11月号にこんな記事。
まるで都市の建造物のように立ち並ぶ4つの香水ボトル。


"PARFUMS"の文字の下に書かれているのは"SILLAGES URBAINS"。"SILLAGE"とは「残り香」の意味だからこれは直訳すると「アーバンな残り香」。紹介されている4種はそれぞれ、世界の中でも心にとどめておきたいような都市の香りがするのかな…と思って読んでみます。

それぞれについて、" Première impression " (第一印象、トップノートの香りの印象)、" Dans son cœur (中心部、ハートノートの香りの印象)"、" Ce qu'il laisse derrière lui "(最後に残るラストノート) の3段階に登場すると思われる香料とそのイメージについて記されています。

ちなみに、この4種のうち、現在日本入手できるのは右側2種、" BOTTEGA VENETA "(2011,10月発売) と" BURBERRY BODY "(2011,9月発売)のみではないかと思われます。

まずは、" BURBERRY BODY "から。
150か国で発売されたとあって、持続性の高い香り(10日前に吹き付けてもらった試香紙からは今も甘美に滑らかなテクスチュアがゆらめいています)ということを私自身香りを試して実感しています。この記事によれば、第一印象が最もドラマティックなのでその部分のみ日本語でご紹介。
…緑のアブサン、桃、フリージアのみずみずしさがハイドパークの並木道を歩く人をうっとりさせるでしょう。…

次に" BOTTEGA VENETA "。
この香りの私自身の印象については10月のこちらのブログに記したように控え目な洗練された美を体感させてくれるものでした。ブランド初の香水に敬意を込め、記事の香りの記述を訳してみます。
… (第一印象)ベルガモットに続き、ヴェネツィア美女のお気に入りの花、ミュゲとシクラメン。(中心部)このメゾン、ボッテガ・ヴェネタを有名にしたレザー、そしてサンバックジャスミン、パチュリの組み合わせへ。(ラスト)…心地よいパウダリーなシプレは、サンダルウッドやアンバー、トンカビーンとともに心地良く優雅なハーモニーとなる。…

そして左端、ラルチザン・パフュームの" MON NUMÉRO 8" は、ラストノートの記述に、 "l'Opéra -Garnier "(パリにあるオペラ座)にいる女性、というフレーズが登場。オペラ鑑賞中のパリの貴婦人に似合いそうなイメージ。このシリーズ、ラルチザン・パフュームのサイトで色々調べたところ、日本では9と10が発売されているようですが、8は香港・レーンクロフォード(百貨店)における限定販売のようです。

ゲランの" Paris- New York " 。ずばり都市の名前です。記事では、中心部の香りで"les arômes des gâteaux de Noël "(クリスマスケーキの香り)という言葉が登場するので甘~い香りなのかと思いきや、ラストノートの記述では、" cèdre et sapin "(シダーとモミ)といった樹木の名前。なんだかこれぞ都会のクリスマスを彷彿とさせます。2009年に「パリとモスクワ」、「パリと東京」といったヴァージョンとあわせて3種限定発売されていたことが海外のサイトを調べてわかりました。

さて、ハイドパーク(ロンドン)、ヴェネツィア、オペラ座(パリ)、ニューヨーク。
この中で私は、パリのオペラ座付近にしか行ったことがないので、他の3カ所にもいつかは…と思いますが、このボトルを眺めての気分で特に行きたいのはヴェネツィアかな…と感じます。ヴェネツィア美女にも逢いたいです。明日はそう感じさせてくれたボッテガ・ヴェネタのお洒落なボトルの近影画像でブログを書きたいと思います。

ブレンドで引き立つゆずの香り・「ゆずレモン」

柚子。柚子はゆずであり、単独で存在する限り、それ以上でもなければそれ以下でもない。

ゆずはゆずの香り、としてかけがえのないものだ。これはこれで素晴らしい。しかし、香りとしてこのゆずの素晴らしさが引き立つのは、間違いなく他の異質なものと出逢い、融合したときであると思う。

そもそも香りがブレンドされて単なる足し算ではない相乗効果をもたらすというのはこういうこと。ブレンドによって別物に変身するという美の瞬間に何度も立ち会ってきた。

またしてもそんなことを実感できるものに出逢った。しかも喉がかわいて気分をリフレッシュしたいな…と感じていたまさにその時に。

ゆずレモン(ITO EN)

なんとゆずとレモンの他に、シイクワシャー、カムカムもブレンドされている。飲み口は爽やか。レモンのような清々しさが拡がったったかと思うと、どこからか南国の風とともに手応えのある酸味がじわじわ響き、気がつくと上品にゆずの余韻がほのかに残る。こんなドラマチックな香り方の最後に印象付けるように香るゆずはやっぱり只者ではないなと思う。それはブレンドの成せる技。




2011年11月14日月曜日

香りと空想が好きな方へ・『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(森晶麿 著)

書物との出会いは、人との出会いと同様。インスピレーションが走るときは大抵重要な出逢いである。

先週私は、一冊の本に出逢った。
まずはタイトルに魅かれる。
「黒猫」、そして「美学」。
装丁のイラストも赤と黒のコントラストが印象的。

そしてページをめくる。
どうやら登場人物には「黒猫」がいるらしい。
開いたページで「黒猫」がこんなことを言っているくだりが目に留まった。
「最近、僕は嗅覚の美学的問題というものに取り組んでいるんだよ。…」

もうこの段階でこの本を読みたくなっていた。
最後に、と改めて表紙の帯を眺めた。
「第1回 アガサ・クリスティー章受賞作」。
私の好きなミステリー。もう心は決まった。

一度だけ、通して読んでみた。私の好きな世界があった。主人公は少なくとも「香り」に詳しい美学・芸術学教授。そして、ここが私の個人的に好感のもてるところなのだが、男女の間柄を単にありきたりの、かたちだけの恋愛でしか捉えないような人物ではない。本名が明かされていない二人の登場人物は、日常のささいな出来事に新鮮な感受性をもって「謎」として眺める心を大切にできる。何気ない空想の楽しみを知る人にとって、ここに収められた六つのストーリーは様々な絵となって映るだろう。

森晶麿 著『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(ハヤカワオンライン)

そしてもう一度、『美学入門』(中井正一 著/中公文庫)を読み返したくなった。



2011年11月13日日曜日

7年前の出会いに感謝して・サロン「フレイス」ご紹介

かつてご縁のあった方のご活躍を、時を経て知るというのは嬉しいものです。

2004年。
私は、某リゾートホテルのスパセラピスト対象アロマテラピー研修講師として毎月那須に通っていました。やがてオーナーよりホテル直営のサロンを東京・青山に開きたいとの相談を受け、夏から新サロン開設ディレクターとして、スタッフの募集から採用・指導はもちろん、トリートメントメニューの開発に携わることになりました。
私はまず、エステティック技術をもつ店長候補の女性を探しました。直接面接をさせていただき「この方ならば」と決めた女性はホテルでの勤務経験、エステティックサロン店長経験共に豊富な方。その後約半年間、私が直接アロマテラピー、香り、人体に関わるさまざまなことをご指導させていただき、サロンは無事にオープン。マネージャーの彼女のもと、2005年から2009年までの間、多くのお客様に愛されるサロンとなりました。

2009年にそのサロンがクローズされた後、彼女から新しいサロンのご案内をいただきました。経験を積み、さまざまなことを吸収され、これからも学びつづけようというお気持ちとともに新たな挑戦に向かう姿勢を応援したいと思いました。

女性の名前は、植野八智与さん、
植野さんがつくられたサロンの名前はFlace(フレイス)
サロン情報はもちろん、植野さんのお人柄がじんわりと伝わってくるようなサイトです。すでにお持ちの美容技術に香りの力をプラスされ、これからも多くの方に喜ばれる時間を提供されますように。

2011年11月12日土曜日

フレッシュな笑顔の花・「オー・ロラ!/マーク・ジェイコブス」

笑顔。やはり理屈抜きに魅力的。
女性の笑顔は、咲いたばかりの花のよう。
そんなことを改めて思い起こしてしまったフレグランス。


肉厚な半透明の柔らかな素材が重なるように作られた花びらのキャップ。シルバーの網目が繊細な光沢を放つ根元とともに、このキャップ単体でも立つのです。淡いジューシーピンクの液体が、この秋(10/12~)日本で発売されたばかりの
香り、" OH,LOLA! / MARC JACOBS"(オー・ロラ!/マーク・ジェイコブス)のオードパルファムです。

親しみやすいフルーティー フローラルの香り。
第一印象のイメージは、屈託のない笑顔。いきいきとしたラズベリーや洋梨の甘酸っぱいさわやかさがあふれます。もしこの香りが長い髪の毛先にほんのりついていたとしたら、風とともにあっという間に流れていくほど軽やかです。
ですがこれはシャンプーではありません。ちゃんとウエスト周りなど、肌の体温であたためて、第二の印象、ハートノートの香り方も重ねた衣服の間から漂わせてください。弾けるフルーツの香りの次は甘美なフローラル。ピオニー、マグノリア、シクラメン。優しくフェミニンな雰囲気です。そして…ラストノート。最も長くこの香り方と付き合うことにもなるのでベースノートと表現しましょう。これが柔らかく上品なのです。ふんわりと肌触りのよいシルクに包まれているような感触。バニラ、サンダルウッド…そんな香料たちのハーモニーのおかげ。

色の印象で例えると
元気な明るい赤…ピンクのグラデーション…さらに光沢のある落ち着いた色へ。
そんなイメージはパッケージでビジュアライズされていました。


パルファム編集日記では、編集長がこのフレグランスの発表会を取材したときの画像をご覧いただけます。

実は、この「オー・ロラ!」には、お姉さんともいうべきフレグランスが2年前に誕生していました。肌を包み込む官能的なフローラルノート「マーク ジェイコブス ロラ オードパルファム」発売(OPENERS. 2009,11,12 )

昨年12月のブログ でご紹介したペッパーの香りがスパイシーな"BANG"のボトルも一度見たら忘れられないインパクトを持っていました。ルイ・ヴィトンのレディース担当デザイナーとしても知られるマーク・ジェイコブス。そのイメージビジュアライズパワーには今後も期待。

2011年11月11日金曜日

内に秘めた女性の幻影・「フェミニテ デュ ボワ/セルジュ・ルタンス」

今から19年前、パリで話題になったフレグランスがありました。
フランスの美容雑誌"VOTRE BEAUTE"1992年11月号にその広告が掲載。


当時、私は香水の記事目当てに数年間この雑誌を購読していたのですが、このページには何度も目が留まりました。しなやかな女性のボディラインとともに浮かび上がる曲線美のフレグランスボトルは印象的。名前は" Féminité du bois "(木のフェミニティ、女性性)。

資生堂で1980年から20年間イメージクリエイターをつとめたセルジュ・ルタンスが資生堂のために創った香りで、当時パリでは発売されたものの、日本では販売されていませんでした。

想像の中の世界でしかありませんが…
私は「木の精」という存在をよく思い描きます。周囲のあらゆる生き物の生を受け入れながら、優雅に、そして時にしたたかに、長い年月を静かにみつめている存在。それはどことなく、しなやかに時の流れをくぐり抜けていく女性性のようでもあります。

2009年春、「フェミニテ・デュ ボワ」は資生堂ザ・ギンザのセルジュ・ルタンスのシリーズに仲間入りしました。フェミニテデュボワ | パルファム セルジュ・ルタンスラインナップ |ザ・ギンザ 。もう日本でも入手できるのです。ボトルは発売当初のものとは異なりますが、香りはまさしく、私が最初に広告ビジュアルを見て想像したものそのものでした。





なめらかなアトラスシダーの温もりは、フルーツや蜂蜜、スパイスの豊かな恵みとともに神秘的な営みが繰り返される森の秘密を香らせます。

11月の初め、私はこのピンクグレイの液体を纏って出掛けてみました。鏡も見ないのに自分が穏やかな表情でいられることに安心し、感じることへの行動にためらいもなく、静かにスムーズに時が流れていきました。特に意識せずして強調しなくても、自分が紛れもなく女性であることを感じられた豊かな時間でした。


ボトルのキャップは光沢のある球形。スプレーとして使用できるアトマイザーもついています。外箱の中には小さく蛇腹に折り畳まれた栞が入っています。セルジュ・ルタンスからのメッセージが10か国語で記されていました。

東洋由来の香料がメインで使われるフレグランスはオリエンタルタイプとも呼ばれます。西欧の人からみると神秘的な魅力として映ったのかもしれません。木の香りからのインスピレーション。西欧人調香師のセルジュ・ルタンスの感覚が第一のフィルターにかけられました。そうした感受性を想定して、20年近く前にすでに日本からヨーロッパの人たちに愛される香りを提供していた資生堂のローカリゼーション発想。ぜひ記憶に刻んでおきたいと思います。

コートの季節

今日は寒くなりました。そして満月です。
秋から冬へ。ひとつの節目。

秋に冬が混じってきたと感じた先月半ば。
「だからといってまだコートは着ない。ジャケットにも頼らない。」とつぶやきました。温かみのあるラストノートの香水とともに、こんな時にしか楽しめないような着方…ニットやブラウスの重ね着…ショールとマフラー…の季節を過ごしてきました。

でも今日の気温は12月並みだとか。
いよいよコートの出番です。
私は三種類のコートを長年大切に着ています。

まずはロングコート。
煉瓦のような赤味を帯びた茶色にはなかなかその後も出会えません。ゆったりとしたシルエットと全身をつつむあたたかさがこの茶色とあいまってお気に入りです。

次に、ステンカラーの膝丈コート。ベルト付き。
ややグレーがかったオフホワイトのシンプルなタイプです。上記ロングコートよりも薄手ではありますが、春先から真冬まで、カジュアルから正装まで幅広く着用できます。

そして三番目は腰までの柔らかな白のショートダウン。
縫い目がタテヨコに淡く交差しているタイプと、全く縫い目なく愛らしいふちどりのポケットがついたタイプ2種類をリバーシブルで着られます。
小さくたたんで収納すると枕にもなります。
ダウンコートは縫い目が強調されていて遠くから見ると甲殻類というか昆虫というか…そんなふうにみえてしまうのがチョット苦手なのですが、このダウンは
シルエットも肌触りも柔らかく、ボタンを留める位置で様々なニュアンスを楽しめます。全て留めてしまえばマフラー不要。

三色・三丈のコートとともに冬の季節へ。












2011年11月9日水曜日

林檎は妙薬のアイコン・「ニナ レリクシール /ニナ リッチ」

このところ私は毎日林檎を食べています。
毎朝どんなにフラフラと起きてきても、弾けるように爽やかな林檎の香りと酸味で目が覚めます。林檎の旬のこの季節、私にとって林檎はまさに元気の妙薬。

そしてこちらが、林檎のかたちのフレグランス。


名前は" Nina L'Elixir "(ニナ レリクシール)。ニナ リッチの新香水。
" élixir "とは霊薬、妙薬を示す言葉でもあります。

ニナ リッチといえば…1948年発売の歴史的名香、戦後の暗い時代に夢と平和をイメージさせた "L'air Du Temps"(レール デュ タン・意味は「時の流れ」)が有名。1952年、このブランドの "Fille D'Eve"(フィーユ ディヴ・意味は「イヴの娘」)という香水のためにラリック社が創ったリンゴを形どったクリスタルボトルは素敵でした。

「レール デュ タン」
…ベルガモットとカーネーションを基調としたさわやかなブーケの香り。くちなしの静かな甘さがしとやかなエレガンスを漂わせる。
「フィーユ ディヴ」
…ベルガモットを基調にジャスミン、ベチバー、ゼラニウムを微妙にブレンドした繊細でソフトな香り立ち。
以上2種の香調解説は、平田幸子監修『香水の本』(新潮文庫)より。

2006年にデビューした「ニナ」の香りも林檎の形のボトルで思わず目を奪われましたが、今年の新作「ニナ レリクシール」のボトルカラーはさらに深いレッドです。香調はスパークリング スイート センシュアル。


今日はチョット3時間ばかり、私もこの香りにつきあってみました。
トップノートのレモンやライムがジューシーに弾けています…目が覚めますね、これは。しばらくたつとまるでラメがキラキラきらめくかのような空気感。ますます元気になってきます。外出する気分になって予定外に買い物へ。帰ってくるとふんわりふわふわリンゴの妖精さん…の世界。食欲も無かったのにキチンとランチもいただきました。そして…3時間後の今。私の体温とあいまって柔らかなヴェールになっています。優しい気持ちでいられます。

この香り、鼻に直接受け止めた表面的な印象だけで敬遠する人もいるかもしれませんが、こうやってチョット鼻から離れたウエストあたりの肌に乗せて、衣服を重ねて香りを聞いてみてください。弾けるジューシー感、スイートな林檎のふんわり感、やがて柔らかな優雅さへと変化しながら衣服の間からこぼれる時間も経験してほしいと思います。調香師は人の肌に乗せられて体温で温められながら変化していく香りを想定しているのですから。

2011年11月8日火曜日

ルラボ・7都市限定の香り「 City Exclusive Collections 」への好奇心

先週土曜日は表参道へ、VOGUE主催のFASHION'S NIGHT OUT のオープニングにあわせていくつかのブランドショップを訪れた。私の場合、お目当ては服そのものよりも最新の香りチェックであり、おかげでそのブランドが表現する空間の中で香りのイメージを自由に感じることができた。

面白いなと思ったのは、それぞれの香りが、やはりそのブランドの発祥の地のイメージと重なっていたということ。イギリス、フランス、日本。ブランドがあえて自覚したわけでもないはずなのに、それぞれの祖国をどこかしら彷彿とさせるものがあったという事実。

そんなことを思い起こしてしまったのは本日のOPENERSのこちらの記事を見つけたから。
ルラボ 独自の"メイド・ トゥ ・オーダー"で驚くほど持続する個性的フレグランス 「 City Exclusive Collections 」&「SANTAL 33」

東京限定のガイアック10がウッドの香りを生かしているあたり、なんとなくなるほどな…と思う一方、タイトルから強烈に私が好奇心を魅かれてしまったのは 「New York- Tubereuse40」 と 「London- Poivre23 」と 「Chicago -Baie Rose 26」。3都市ともに、私が訪れたことのない街であり、しかもチェベローズ、胡椒、ピンクペッパーがどんなふうに変身しているのか…と想像がふくらむ。

未知への好奇心。私にはそれが究極の欲求なのかな?とも感じた。ちょうど日曜日の夜にこんなブログ を書いたばかりだったな…と。




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2011年11月7日月曜日

日本産クロモジの香りから聞こえる「木の循環」

先週11月3日は「文化の日」であるとともに、社団法人 日本アロマ環境協会が10年前から制定している「アロマの日」でもありました。

そこで私はこの日、読書タイムのBGMにと、以前から興味を寄せていた天然精油の香りを選びました。日本の森で育った植物、クロモジの精油です。
yuicaエッセンシャルオイル クロモジ



シンプルな白のパッケージには、樹木がその命の時を刻む年輪のような木目がうっすらと浮かび上がっています。中には5mlのクロモジの精油(枝葉より水蒸気蒸留法により抽出)入りの遮光瓶と、安全に使用するための詳しい説明書が入っています。

クロモジは、日本では古来から爪楊枝に使用されていたときいています。落語の中でも、楊枝のことを「 クロモジ」と呼んでいました。今でも、お茶会などで和菓子に添えられる風情のある楊枝といえばこの黒文字(クロモジ)です。昔の人がこのような用途のために選んだ理由は何だったのかと想像してみます。今のように歯や口腔内を綺麗にできるペースト状の歯磨き剤も無かった時代、クロモジを使うことによって得られたメリットは…?もしかしたら爽やかな芳香とともに抗菌効果も期待できるのかもしれません。

私がこのクロモジの香りに魅かれた理由はその清々しさです。深淵な森の中に浸ったかのように気持ちが鎮まり、ふっと一瞬、ローズウッドを思い起こさせるフローラルな香りが流れていきます。

おかげで3日の午後は思いのほか読書に集中できました。読んだ本のことはこちら に書いています。

yuicaの方によると、クロモジ精油の原材料となる木はたくさん日本の森にあるそうです。もちろん、スギやヒノキも…。豊かな日本の森林資源を上手に活用することが、「木の循環」につながり、自然環境をまもることに繋がるのではないかと改めて感じました。

2011年11月6日日曜日

究極のとき、満たされたいのは嗅覚… 他の感覚は嗅覚に追従する

いつ自分が最後の時を迎えるかなんてわかるはずもないのだが、仮にその最後が事前にわかったとして…私の感覚は何を求めるのか。その究極の欲求はと考えてみた。キッカケは、服飾史家、中野香織さんの本日のブログ。

「姿も、形も、生態も、行動も、何を食うかによって変わってくる」(中野香織さんブログ2011,11,6)

ブログで紹介されている本、『最後の晩餐 死ぬ前に食べておきたいものは?』(宇田川悟 著 / 晶文社)は面白そうなので是非読んでみたいと思う。そして、様々な生き方によってどういう回答が出てくるのかを自分の場合と比較してみたいとも感じた。

私自身の「究極の欲求」を記す前に、まずは中野さんのブログに記された内容の中で共感できたことを挙げてみたい。

第一に、このブログタイトル。まさしく食べるもので身体も行動もつくられる…と日頃から実感していたところ。同時に思い出したことがこちら。以前、解剖学者の養老孟司さんが著書の中で、こんなようなことをおっしゃっていた…虫は幼虫のときにはせっせと食べて大きくなることが使命だから、食べることに機能が特化したかのようにまるで消化器官そのもののような形(あおむしなどを想像してください)をしているが、成虫になると生殖を目的とした形態へと身体を変える(蝶や蛾を想像してください)…。

第二に、中野さんが、ご自身は最後の晩餐は何を?ときかれたとしても食に執着がなく、ほっとくとほんとうに何も食べないので…とおっしゃる一方で、最後にこれを飲まなきゃ死ねないというお酒がある…として香り高いお酒を挙げられるくだり。私にも思いあたる。一人でいるときに何かに夢中になると食事で中断することを忘れてしまうことがある。(とはいえ、後になって猛烈な空腹を一旦意識してしまうと電池切れみたいに倒れそうになるので困ったもの。) そして、香り高いものへの欲求の高さ。特にお酒は量は要らないが、好きな香りのものを自分のペースで飲みたいという欲求は高い。香織さん同様、カクテルではサイドカーもスーパードライなマティーニも大好きです。

やはり私は、最後を目前にするような危機を感じたとして、可能であれば最も好きな香りを嗅ぎにいくだろうと思う。この感覚に食べることも含めて他の感覚も追従するのではないかと想像。究極のとき、満たされたいのは嗅覚。五感の中で一つを選ぶとするのなら。




リスに励まされる11月・素敵な2カット

11月のカレンダーの写真はシマリスの近影でした。
きのこと並んで、両頬をいっぱい膨らませています。
冬ごもりの準備…そんな季節を感じさせてくれます。
背伸びするともっと大きいのかもしれませんが、写真のリスの姿勢ではその背丈がきのこの約1.5倍。なんとも愛らしい大きさです。

そんな愛らしいリスの面影がどこか頭に残っていたのでしょう。
昨日午後、散策の最後に訪れた渋谷パルコの地下書店リブロで欲しかった洋書を見つけてハッピー気分でいたところ、ポストカードラックのリスの写真に目が留まりました。



こんな素敵な2枚を発見したのです。

左の写真は、シマリスさん(by INOMATA NORIHISA / Aflo Chipmunk)。
きのこを屋根に、たたずむシマリスさん。やはり小さそうです。
それともこのちょっと妖しいきのこが大きいのかな。
周囲は素晴らしい秋色のグラデーション。

右の写真はキンイロジリスさん(by IWAGO MITSUAKI / Squirrel)。
もしかしたら、猫の写真でも有名な動物写真家の岩合光昭さんの作品?
なんて可愛いらしい一瞬でしょうか。
小さな両手で茎を持ち、花の香りをうっとりと嗅ぐ仕草。
閉じた瞳、ちょこんと添えられた小さな手に、一瞬涙がうるっとこぼれそうになりました。こんなタイミングに出会えるなんて。

リスはみな必死で日々を生きているだけなのではないかと思います。
私もそうです。励まされました。



2011年11月5日土曜日

インスピレーションは音楽から・ゲラン イディール デュエット ローズ&パチュリ

自然に湧き上がる心のときめきがロマンティックに表現された香り、ゲラン イディールは、繊細な香りの雫を想起させるオラ・イトのボトルデザインとともに今も私の記憶に鮮明に残っています。
イディールのボトル・記憶に残る曲線美

それから2年。調香師ティエリー・ワッサーが、フランスのロマン派音楽の作曲家であるエクトル・ベルリオーズによる歌曲集「夏の夜に」にインスピレーションを得て生み出したのが、"イディール・デュエット ローズ&パチュリ"。イディールの香りのシンフォニーから抜け出したローズとパチュリの香りの繊細なハーモニーが、従来のイディールの香りの骨格を引き立たせています。日本では2011年6月3日に限定発売されました。








薔薇の花とパチュリの葉でしょうか。さりげなく柔らかな曲線が描かれたこの特別なボックスに収められたボトル。曲線はイディールそのままですが、中身の液体は赤みがかった琥珀色。

確かに異質な存在が静かに出会い、共鳴し合いながらやがて一体化していく穏やかな音楽を聴いているかのごとく香ります。もはや一つひとつの音を追いかけることはできません。一つの調べという流れとなっています。調香師は薔薇やパチュリの香りを使って音楽を奏でているかのようです。

イディールデュエットには、イディール オーデパルファンの約2倍のブルガリアンローズエッセンスが使用されているそうです。そしてインドネシア産のパチュリは厳選された葉のみがその香料として使用されるのだとか。天然香料という原材料にこだわるゲラン。おそらく単体でもうっとりできるようなローズやパチュリなのでしょう。

確かに2年前のイディールの香りの雰囲気を保ちつつ、おごそかな高貴さとともに洗練された華やかさが増しています。そこにはすでに、天然のブルガリアンローズ精油そのもののワイルドな華やかさは見当たりません。パチュリ自体も主張してはいません。まるで好奇心旺盛なハツラツとした薔薇の花の精が、森の奥深くに眠るしっとりとしたパチュリの温もりに導かれ…共鳴しあううちに本来の気高さが抽出されたかのごとく。

この秋、イディールからはもう一種薔薇の香りを生かしたタイプも発売されたようですが、この薔薇とパチュリの優美なデュエットはまずは私の備忘録に残しておきたいと思います。





2011年11月4日金曜日

知性に負けない野生の存在・ゲラン オム オーデパルファン

ゲラン オム オーデパルファン。
今年発売された男性用のフレグランスの中で、最も記憶に残った香り。



この香りの魅力、女性の私が表現するとこんな感じでしょうか。
「知性に負けない野生の存在」。
知性が勝つとは? 存在ばかりが強調されています。
知性に負けない野生とは? とらえどころのない存在感。
予測不能という魅力。
Monsieur (ムッシュウ)を演じているだけではない男性の魅力。

いつの間にかそばにいて、ふと気がつくともう姿が見えない…
いつまでも同じようにしつこく香るような重さはありません。
フレッシュな印象はそのままに、いつの間にか静かに深く…
確実に記憶に刻まれていく香りなのです。

この香りの原型は、すでに3年前に登場していました。
ゲラン 180年目の新メンズフレグランス 男の野生が選び抜く「ゲラン オム」誕生(OPENERS 2008,10,23) 。1828年にフレグランスハウスとして誕生したゲランが、男性のための香りとして初めて「オム」(HOMME フランス語で「男性」を示す)と名付けた香り、「ゲラン オム 」が、創業から180年目にデビューしていました。正確には「ゲラン オム オーデトワレ」です。

今年の香りは、オーデパルファン。ゲラン パワフルで男性的な香りと、ピニンファリーナ カーヴの出会い「ピニンファリーナ コレクターズエディション」(OPENERS 2011,5,20)。2年前のオーデトワレよりも香料の配合量が高く、持続性に優れているということです。しかし私が3年前のトワレよりも優しく神秘的に香るように感じた理由は、変えられたのは単に香料濃度だけではなく、ウッディな香りが強調されたからかもしれません。

そしてボトル。
透き通った明るい赤がカーボディを彷彿とさせるカーヴに反射。



揺らめく赤の中に浮かびあがるのは、フランス「ゲラン」のロゴと、ラグジュアリーカーのデザインでも有名なイタリアのブランドでこのボトルをデザインした「ピニンファリーナ」のロゴ。

来日公演記念 ジェーン・バーキン写真展

つい先日観たセルジュ・ゲンスブールの伝記的映画、「ゲンスブールと女たち」に登場する実在の人物たちの中で、ひときわ魅力的に演じられていたと感じたのはイギリス人歌手、女優のジェーン・バーキン。
ブリジット・バルドーとの別れを余儀なくされた直後の傷心のゲンスブールにひとめぼれし、「あなたは美しいわ」と素直に自分の気持ちを伝えるジェーン。そんな彼女にゲンスブールも恋に落ちてしまいます。当時20歳位のジェーンはスレンダーなボディに長い髪。今観ても洗練されたファッションでその魅力を包んでいました。そしていつも抱えていた籐のカゴバッグ。…ああ、このカゴバックがエルメスのバーキンバッグになったのね…としみじみ実感。

近年テレビのフランス語講座の中でもそのライブ風景を観ましたが、年齢を重ねても彼女の屈託のない魅力的な笑顔はそのままです。

そんなジェーンの写真展が11/3から15日まで渋谷パルコ地下1階・ロゴスギャラリーにて開催されると知りました。写真は、彼女の長年の親友であり、ジョン・レノンからマーガレット・サッチャーまでさまざまな著名人を撮影しているフォトグラファー、ガブリエル・クロフォードによるもの。

来日記念公演を前に、ジェーン・バーキン写真展開催(OPENERS 2011,10,31)

是非観にいきたいと思っています。

2011年11月3日木曜日

歴史を動かした「香料」はやはり面白い

香りなんて無いほうがいいという声を聞くことがありますが、そんなふうに感じてしまう、その人のそれまでというものを残念に思い、改めて未来を担う世代には香料と人との関わりの歴史をきちんと伝えなくてはと思っています。

本日午後、タイトルと著者の経歴に興味を持ち、一冊の本を読みました。
「僕は君たちに武器を配りたい」/ 瀧本哲史 著 (講談社 BOOK 倶楽部)。今年9月にデビューしたばかりの書籍です。

タイトルから感じたのは、現在の日本の若者向けに " 知 " の武器を配りたいという著者の気持ち。まずは現在大学や専門学校で講師をしている私に共感できる部分があるかも…という興味を持ちました。

著者のプロフィールの記述はこう始まります。京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授。エンジェル投資家…。

読みながら共感できることは確かにあり、以前から感じていた危機感も著者の視点で詳しく記されていると感じました。この数日間特に私が重要と感じていたことに関連する部分を一冊から一ヶ所、私のための備忘録として記しておきたいと思います。

p44から始まる『第2章「本物の資本主義」が日本にやってきた』の中で著者は、p57から3ページにわたり資本主義の発展の経緯について述べています。その後半部分、p58後半からp59にかけての著者の記述を引用し*~*に記します。


*…略奪モデルの後に、富を生み出す仕組みとして新たに出てきたのが「交易モデル」である。大航海時代の香辛料貿易が典型的だが、遠く離れたA地点とB地点では、同じモノにつけられる値段が違うことを利用し、モノを移動させることで富を生み出すビジネスである。インドではそこらじゅうに自生している、スパイスの原料となる草や木の実を集めてくると、イギリスでは宝石のように高く売れる。しかしインドまで行くための航海は、非常に危険であり、高いリスクがあった。航海に失敗すれば命すら危うい、そこで船に乗る人と、航海に必要な金を出す人でリスクを分け合うことになった。船に乗るのが起業家(アントレプレナー)で、金を出すのが資本家・投資家(インベスター)の原形である。…(中略)…株式会社の誕生である。*

最近特に私が未来ある学生に伝えたいと感じていることは「歴史を学ぶことの重要性」と「人にとっての香りの重要性」ですが、上記の引用部分はまさしくその認識を改めて感じさせてくれた記述です。私の母校である大学のフランス人教授が最終講義で説いた「歴史を学ぶ意義は現在を当たり前の状況として受け流さないためにある」という言葉も思い返しています。

2011年11月2日水曜日

「アロマの日」10周年

昨日から、社団法人 日本アロマ環境協会主催のアロマの日(11/3)にちなむアロマウィークということで、アロマテラピーフェア2011 (11/1~11/7)プランタン銀座本館7階 が開催中。

この試み、なんと今年で10周年。文化の日に香りの記念日を設置しているところ、もともとはヨーロッパ中心の香りを楽しむライフスタイルを地道に日本に広めようとした好例であると思います。

毎年、たいへんな盛況ぶりであると聞きます。

これもひとえに、1996年に日本アロマテラピー協会としてスタートし、2005年に環境省所管の社団法人になった協会の工夫の積み重ねによるものでしょう。

…アロマテラピーという異国発祥の文化を日本人の体質や習慣、嗜好を考慮の上、安全に、ライフスタイルを豊かにするための方法として検定制度から資格認定制度の創出をはかり、普及に貢献…その功績は大きいと常々感じる私もこうした協会の会員の一人。

明日は協会主催の アロマの日記念イベント2011も開催。今年のゲストはファッションモデルの富永愛さん。きっと富永さんもアロマを活用されているのではと想像しています。

人として、嗅覚を含む五感をフルに活かしてより良く生きる、そんなライフスタイルに香りはかならず役立ちます。そして、「香水」というファッション表現の魅力にも敏感になれるきっかけも作ってくれるアロマテラピーは、まさに文化の日に改めて意識したいものだと思います。



2011年11月1日火曜日

ファッションショーで、ちょっと未来の空気感を楽しむ

今現在見ることができるもの、身近なものの多くが「既知」という親しみと共に過去のものとなっていくとしたら、ちょっと先の「未来」は、未だ形になっていない抽象的なイメージ表現の中に潜んでいるように思う。

2005年以降、講師をつとめる文化学園大学や文化服装学院の文化祭で開催されるファッションショーを毎年楽しんでいる。服の表現を、着る人、その動き、登場順、舞台、照明、音楽…全ての要素とともに最大限に伝えようとする試み。毎年フレッシュな意気込みと、未だ世にプロとしては出ていない潜在的な感覚のシャワーを浴びるようで面白い。

初めてファッションショーを見たのは仕事として。某ファッション誌(現在は存在しない)の編集者として取材したときのこと。そのときは今よりも理屈っぽく眺めていたと思う。言葉に置き換えようとすることに必死だったから。それはそれなりに五感を駆使した。

現在私はファッションを学ぶ学生に「フランス語」という語学の最初歩を指導している。語学は理屈も大切。でも「服」と同じように「言語」もそれのみ単独では存在しない。つかう人がいて、その人の行動があり、背景がある。歴史、文化、時と場所の事情…。そんなわけで言語を軸としてその文化で生きてきた音楽や映画、香水も紹介したり鑑賞する時間を設ける。五感を総合的に駆使しながら「言語」も「服」も雰囲気をつかんでほしいと。どちらも時代の流行の流れの中にある。そして感受した雰囲気から、彼らがこの先どうありたいと願うのかをのびのび表現してほしい。

明日はそんな空気感を文化服装学院 のファッションショーで感じたいと思う。文化服装学院 文化祭11/2~4 、今年のテーマは「福、着たる」。ショーのテーマは "unlimited"。

秋の夕刻、「アール・デコの館」(東京都庭園美術館)にて

東京都庭園美術館は、朝香宮邸(あさかのみやてい)として今から78年前の昭和8年に建てられたアール・デコ様式の建物です。



朝香宮家は第二次世界大戦後までこの地を住居とされました。その後は外務大臣・首相公邸、国の迎賓館として使われ、昭和58年10月に美術館として生まれ変わりました。


1920年代から1930年代にかけてヨーロッパの装飾美術を席巻したアール・デコ様式。1925年にパリで開催された現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ博覧会)を見学された朝香宮ご夫妻はその様式美に魅せられたそうです。


アール・デコの精華ともいわれる朝香宮邸の建築は、日仏のデザイナー、技師が総力をあげて建築材料を厳選し、当時の最高級の技術が駆使されたものです。その内装は、朝香宮自身が依頼したフランス人芸術家、デザイナーのアンリ・ラパン、宝飾デザイナーのルネ・ラリックらによるものでした。

…以上の文章は東京都庭園美術館でいただいた資料の記述の抜粋です。11月1日より改築工事が始まり平成26年のリニューアルオープンまで休館となります。

2011年10月31日、この姿のままで鑑賞できる最後の日の夕刻、多くの来館者が名残惜しそうに撮影を楽しんでいました。私も魅かれたビジュアルを記録にと撮影し、こちらのブログに掲載しています。上下左右どちらを向いても重厚ながら控えめな美が漂うアール・デコの魅力を満喫できたと思います。



1F 次室(つぎのま)・香水塔。照明と香りの提供を兼ねた存在。客人へのおもてなしの象徴。



鮮やかなターコイズブルーの置物の背景にはレリーフの壁。



パリに滞在中によく見かけた風景を思い起こした、館内から眺めた中庭。




夕方17:00頃。薄暗くなってくるとともにライトアップされた玄関の曲線美。

人間はいつの時代においても「美」を求め、その心は滅びない。
そんなことをなんとなく感じた秋の夕刻。三日月が綺麗でした。