2011年7月16日土曜日

調香師の言葉より

私は調香師の方に直接お会いしてお話をうかがったり、お会いできなくても印刷物を通してお言葉を読ませていただく機会を得てきた。

それらの言葉には深く考えさせられ、強く記憶に残るものが多い。備忘録を残しておきたいと思うようになった。

今日、本棚の整理をしていたら、2009年のNHKテレビ「テレビでフランス語」のテキストが目にとまった。この時期の講座はパリで活躍する様々な職業人へのインタビューがテーマとされていたので魅かれ、テキスト自体に価値を感じて購入していた。

2009年5月号インタビューのトップが調香師 " Parfumeur "、Blaise Mautin氏。
モータン氏のプロフィールに、パリ、ドバイ、アメリカ等の一流ホテルからの要望で高級感とホスピタリティを兼ね備えた香水を生み出し好評…と記載がある。

テキスト上のモータン氏のお言葉から、特に私に印象的であった3フレーズを記しておきたい。これらは、
①「調香師になるために不可欠な能力とは?」
②「好きな香りは?」
の2つの質問に対して答えられたうちの一部として抜粋したもので、フランス語そのままで引用している。( )内はそれらの日本語訳。

①に答えて

第一声
Je serais plutôt un maillon d'une grande chaîne.
(私は大きなつながりの中の一要素でしかありません。)

…最後にこう結ぶ。
Parce que si je dis < Je connais tout. > de toute façon, je suis mort!
(いずれにせよ、「何でも知っている」と言った時点で終わりですから。)

②に答えて

Alors, l'odeur, l'huile essentielle que je préfère, c'est la rose. 9 tonnes de pétales pour obtenir 1 kilo.
(私の好きな香りはバラの精油です。1キロ抽出するのに9トンの花びらを必要とします。)


特に①に対する2フレーズは、職業全般に通じることではないか。私がアロマセラピストとして、精油と人体の基礎を学び実践を積みながら感じたのは、精油業者、精油のもととなる植物、その生産者など、多くの人とのつながりであり、より深く知りたいと望む好奇心だった。そもそも香水が好きでこの価値を広く伝えたいと願った延長上に、人と香料との関係性、天然香料の一種である精油が人体に与えうる影響としてのアロマテラピーへの好奇心が生まれた。色々なことを知れば知るほど疑問は生まれ、その過程において常に研鑽が必要と感じるのはごく自然なことではないか。

②に対する回答として、収率が極めて低いという稀少価値や紀元前より脈々と愛されてきたバラの香りの価値を知識としてだけでなく、実際に香料として活用する過程において実感されていることがうかがえる。これまで、少なくとも私の知る調香師の中でバラを香料として第一に挙げる人物は3名いた。調香師が記憶するといわれる数千種にも上る香料の中で、ということは他にも魅力的な香料は多々あったはずと想像する。その上での選択であり、迷わずこう答えられるというところに、静かな感動をおぼえている。
"odeur" というフランス語は、特に「良い香り」を示す言葉ではない。良いとか悪いといった評価抜きの単なる「におい」である。調香師とは、あくまでも香料(香りの原材料)であるその素材自体を組み合わせたり薄めたりして、" l'odeur " (におい)から "le parfum"(良い香り)を創造する人であると改めて思った。


参考文献:
NHKテレビ「テレビでフランス語」2009年5月号テキスト




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