2011年3月27日日曜日

青いパパイヤの香り(l'odeur de la papaye verte)・1993

東南アジアから帰国した知人がベトナム料理の美味しさを語っていました。思い起こしたのがこの映画、青いパパイヤの香り(原題:l'odeur de la papaye verte 1993年 フランス・ベトナム合作映画)。ベトナムで生まれ、12才でフランスに移り住んだトラン・アン・ユン監督31才の時の作品です。

私が映画館で鑑賞したのは1994年8月。当時の香りの専門誌PARFUM夏号(90号)で紹介され、公開を楽しみにしていました。大変な人気で、映画館でも長い列に並んでようやく観られたことを憶えています。…とある土地で人は人と共に暮らし、食事を用意し、変化する中で淡々と生きていく…今も昔も変わらぬ人の営みの中にはこんなにも輝きがあります。そんなふうに感じたのは私だけではないでしょう。

匂いを感じさせてくれた映画として、私には忘れられない作品の一つです。視覚から感じた匂い、人の感情のあれこれは17年経った今でも瑞々しく心に響いてきます。映画パンフレット表紙にも使われている、この緑陰にたたずむ少女の眼差しに魅かれ、私はこのポストカードをその後何年も飾っていました。


淡々とたたみかけるように流れる映像。熟した黄色いパパイヤしか知らなかった私は、薄緑の青々としたパパイヤがもがれ、洗われ、皮を剥かれたときに現れる純白の真珠のような粒々の種をみて目を奪われました。ヒロインも同じように驚いたのでしょう。素敵なものとの思いがけない出会いの瞬間が丁寧に描かれ、無駄なセリフもなくゆっくりと心に染みていきます。

淡い緑の皮の中、真っ白な中身が刻まれて料理になるパパイヤ。
庭にしゃがんで、地を歩むアリを見つめる少女の瞳の輝き。
成長した少女が月明かりを受けながら静かに洗う長い黒髪。
黒いピアノを前に作曲家の若い男性が着ている白のシャツ。
誰もいないはずの場所でこっそり赤のドレスを着て鏡を見るヒロイン。


今も大切に保管してある映画パンフレット(発行:シネマスクエアとうきゅう)には、この映画が受けた三つの栄誉が記されています。
1993年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)受賞
1994年セザール賞新人監督賞受賞
1994年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート

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